ファイナンス 2022年2月号 No.675
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国についてのポリシーペーパー*22を発表。この中で、ドイツの国内企業に対して中国依存の状況を改めるよう促すとともに、「国家主導の中国経済がもたらす問題に対抗するための54の要求」*23をまとめた。さらに、米国が「2019年度国防権限法(NDAA2019)」で中国ハイテク5社の製品や部品の調達を禁止する方針を固め、同盟国にも排除を要請したことを受け*24、2020年12月、ドイツ政府においても、5G網の整備に際して機器の安全性審査を厳格化することを含む「IT安全法案」を閣議決定した*25。しかし米英等と異なりドイツのIT安全法案は、ファーウェイなどの中国企業を名指しで明示的に排除はしておらず、中国に対しての配慮がみられる内容となっている*26。香港情勢を契機に2019年頃から、中国の人権侵害への懸念が世界的に強まった。メルケル首相は訪中時(2019年9月)に、習近平国家主席や李克強首相と会談し、「香港市民の権利と自由を認める必要がある」と表明した。この懸念は2021年に入るとさらに強まり、3月、ウイグルでの人権問題を踏まえ、EUは天安門事件以来の対中制裁を発動、独もEUの一員として歩調を合わせる形となった*27。EUと中国の間で大筋合意されていた包括的投資協定(CAI)についても、欧州議会は批准に向けた手続きを凍結した*28。同年7月、メルケル首相はフランスのマクロン首相と共に習近平国家主席と電話会談を行い、中国の人権状況に対する懸念を表明*29。さらに8月にドイツを出港したフリゲート艦バイエルンが東京湾に入港した(入港は11月)*30。ドイツ政府は価値観を共有する日米などの国々との連*22) BDI「Partner and Systemic Competitor – How Do We Deal with China's State-Controlled Economy?」*23) 知的財産の保護を改善や強制的技術移転の問題を解決するために中国へ働きかけ議論を進めること等を要求。*24) https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00594/*25) 2021年5月に上院で承認され施行。https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/06/2b71160a630f99aa.html*26) https://jpn01.safelinks.protection.outlook.com/?url=https%3A%2F%2Fjp.wsj.com%2Farticles%2FSB10300823475847564554904587162961186265208&data=04%7C01%7Cyayoi.kato%40mof.go.jp%7Cf7d0459889154843316508d9e561d332%7C64a63521a0e249aca94b330963422738%7C0%7C0%7C637793032385267331%7CUnknown%7CTWFpbGZsb3d8eyJWIjoiMC4wLjAwMDAiLCJQIjoiV2luMzIiLCJBTiI6Ik1haWwiLCJXVCI6Mn0%3D%7C3000&sdata=wRvXP%2F6oAwMSORZcrxiKRB1Annfmgy8lQWbgTtCXJIY%3D&reserved=0*27) EUが30年ぶりに対中国制裁を発動。特定個人や団体に資産凍結等を行った。(独、単独での制裁は実施していない)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR2204T0S1A320C2000000/*28) 2020年12月、EU中国包括投資協定(CIA)は大筋合意されていた。https://www.jiji.com/jc/article?k=2021052100300&g=int*29) https://www.jiji.com/jc/article?k=2021070600032&g=int*30) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA048RN0U1A101C2000000/*31) https://jpn01.safelinks.protection.outlook.com/?url=https%3A%2F%2Fnordot.app%2F811041920409927680%3Fc%3D39546741839462401&data=04%7C01%7Cyayoi.kato%40mof.go.jp%7Cf7d0459889154843316508d9e561d332%7C64a63521a0e249aca94b330963422738%7C0%7C0%7C637793032385267331%7CUnknown%7CTWFpbGZsb3d8eyJWIjoiMC4wLjAwMDAiLCJQIjoiV2luMzIiLCJBTiI6Ik1haWwiLCJXVCI6Mn0%3D%7C3000&sdata=1mjL8Oc%2B6sslukVdYSGWoA1KwhvlUU%2F1NNocCtu%2F8bQ%3D&reserved=0*32) http://www.china-embassy.or.jp/jpn/jzzg/t1907709.htm https://www.asahi.com/articles/ASP9G6WCJP9FUHBI01Y.html*33) https://www.jiji.com/jc/article?k=2021101301080&g=int携強化を狙いつつ、中国への過度な刺激を避けるため、フリゲート艦の中国への寄港を申し出たが、中国政府は寄港を認めなかった*31。以上のように、香港やウイグルの人権問題等をきっかけに、欧米諸国と中国の関係は悪化の方向に進んでいる。経済的な結びつきが強く、蜜月関係と言われるドイツも、中国の人権状況に対する懸念を表明するなどの動きがあった。一方、5Gの問題について中国企業の直接的な排除を避けたり、フリゲート艦の中国への寄港を申し出たりと、中国との経済関係に悪影響が出ることへの配慮も怠らなかった。また、2021年4月、メルケル首相は中国の李克強首相と会談し、「人権を巡る対話をできるだけ早く再開したい」と述べ、両国の法相による話し合いを実施するなど独自のアプローチを試みた。こうした対応の背景には1990年代以来の「貿易による変化」の考え方に基づく経済と人権のバランスをとる姿勢が継続していると見て取れる。なお、ドイツの連邦議会選挙直前の9月にメルケル首相と習近平国家主席との間で行われた電話会談では、習国家主席が、中国とドイツの相互信頼を高く評価し、メルケル首相がドイツをはじめとする欧州の対中実務協力や友好交流の促進のために積極的に努力したことを賞賛*32、また10月12日にも両者はオンライン形式で会談し、メルケル首相は退任の挨拶をしている*33。中国が米、英、日等との緊張を高める中にあっても、メルケル政権下のドイツが、中国と親密な関係性を築いてきたことが改めて確認できる。 ファイナンス 2022 Feb.37ドイツと中国の2国間関係SPOT

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