の党の連立政権であるシュレーダー政権に交代した。SPDと緑の党との連立協定には、国際的な人権問題に対して精力的に取り組み、人権問題の解決を目指すことが掲げられていた*10。このような背景もありシュレーダー政権は、人権問題等を議論する枠組みである「独中法治国家対話」*11を開始した。「独中法治国家対話」は、人権の尊重や法に基づいた国家行動を保証すること等を目的とした閣僚レベルの会合であり、懲罰的ではなく持続的なコミュニケーションに基づくアプローチを通じて中国の人権問題に対する改善を促す枠組みとして現在まで継続。近年は知的財産の保護や刑事訴訟における当事者の権利など、法に関わる多様なテーマが議論されており、省庁間だけでなく両国の企業、大学や専門家同士でも交流を実施している*12。(3)メルケル政権の対中国政策第1次メルケル政権(CDU/CSU&SPD) (2005年~2009年)2005年の連邦議会選挙を受け、SPDと緑の党の連立政権であるシュレーダー政権からCDU/CSUとSPDの連立政権であるメルケル政権に交代した。メルケル首相は在任16年間で12回の訪中を行うなど、経済を中心に中国と親密な関係を築くことになる*13。しかし、メルケル首相の姿勢が在任当初から一貫して中国に親和的なものであったわけではない。例えば、2007年メルケル首相はチベット仏教最高指導者のダライ・ラマとの会談を行い、チベットの文化的アイデンティティの保護やチベットの自治権を求める平和的な活動の支持を表明した*14。中国はこの会談について抗議、両国の関係は一時的に悪化の方向へ進んだ。翌年1月*10) 「Koalitionsvertrag 2002–2006」P75*11) 「独中法治国家対話」:ドイツの法務・消費者保護省と中国の法務省の間で行われる閣僚レベルの対話の機会。2000年より開始され、原則毎年、両省の間で会合が設けられている。直近では、2012年4月にドイツのクリスティーン・ランブレヒト法務・消費者保護大臣と中国のタン・イージュン法務大臣の間で電話会談を実施。その中で、ドイツからは香港やウイグルの情勢について中国に対する懸念が伝えられた。 https://www.bmj.de/DE/Themen/EuropaUndInternationaleZusammenarbeit/DeutschChinesischerRechtsstaatsdialog/DeutschChinesischerRechtsstaatsdialog_node.html Bundesjustizministerin Lambrecht äußert Besorgnis über Menschenrechtslage in China (epochtimes.de)*12) CHINA AND GERMANY:WHY THE EMERGINGSPECIAL RELATIONSHIP MATTERS FOR EUROPE Hans Kundnani and Jonas Parello-Plesner P4*13) https://www.jiji.com/jc/article?k=2021101301080&g=int*14) https://www.afpbb.com/articles/-/2287993*15) 佐々木 智弘 山口 真美 森田 悟「揺らぐ胡錦濤政権の政治経済基盤:2008年の中国」P139*16) 2008年北京オリンピック開会式G7首脳の対応:(出席)日本、米、仏(欠席)独、英、伊、加https://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-32712920080714*17) ドイツ連邦統計局 https://www.destatis.de/EN/Home/_node.html*18) https://www.reuters.com/article/tk8116296-germany-china-idJPTYE83M06X20120423*19) ドイツ連邦統計局 https://www.destatis.de/EN/Home/_node.html*20) クーカ:ドイツのアウクスブルクに本社を置く1898年創業の老舗産業用ロボットメーカー。世界四大ロボットメーカーの1つにも数えられる。従業員数約14,000人のグローバルオートメーション企業であり、世界各地に拠点を持つ。https://www.kuka.com/ja-jp*21) 松本 惇(2018)「みずほリポート 投資規制の強化に動く欧州―中国企業による企業買収を警戒するドイツ・EU」の独中外相会談と2月の温家宝首相との電話会談で両国の関係修復が進んだ*15が、再びメルケル首相はチベットの人権問題について中国を批判、2008年の北京オリンピック開会式への不参加を表明した*16。第2次メルケル政権(CDU/CSU&FDP) (2009年~2013年)以上のように就任当初、中国の人権侵害に対して厳しい態度をとったメルケル首相だったが、両国の経済関係はその影響を殆ど受けずに強化されていった。貿易面について、2005年の両国の輸出入額の合計は約500億ドルだったが、2010年には約2倍となり1,000億ドルを超えた*17。2012年には温家宝首相がドイツへ訪問し、今後3年間で対ドイツ貿易額を2,800億ドルまで拡大させる考えを表明*18。実際には2,800億ドルまでの拡大には至らなかったが、両国の輸出入の合計額は2015年に約1,800億ドル、2020年に約2,400億ドルまで上昇し、ドイツにとって中国は2016年より5年連続で最大の貿易相手国となる*19。第3次、4次メルケル政権(CDU/CSU&SPD) (2014年~2021年)このように中国との経済関係が深まる一方、ドイツ国内では中国への依存を懸念する声が強まっていく。例えば2016年に、ドイツの産業用ロボット企業クーカ*20が中国の企業に買収されたことを受け、先進技術の流出や安全保障上の懸念も高まった。これをきっかけに、ドイツ政府は投資規制強化などの対応策を講じることとなった。*21また、ドイツ最大の産業団体であるドイツ産業連盟(BDI)は、2019年1月、対中36 ファイナンス 2022 Feb.SPOT
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