ファイナンス 2022年2月号 No.675
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国際局 国際調整室調整第二係 係長  高野 裕一ドイツと中国の2国間関係~人権と経済のジレンマは続く~ドイツの対中国政策の推移1972年の国交樹立から始まった(旧西)ドイツと中国の関係は、1989年の天安門事件で最初の転機を迎える。西独は中国に対して制裁を発動。以降「人権」が両国の外交関係における重要な要素の一つとなり、例えばシュレーダー政権下(SPD-緑の党)で始まった、人権等に関する対話の機会である「独中法治国家対話」は現在まで続いている。他方1990年代後半より、急速な経済成長を遂げる中国とドイツとの経済関係は強化される。2005年に就任したメルケル首相は在任16年間で12回訪中するなど非常に緊密な関係性を築いた。その背景には「貿易を通じた変化」、即ち、「独との経済関係の強化が、中国の人権問題等への価値観の変化につながる」との期待があった。しかし近年では、貿易を中心とした中国への依存や、中国の人権問題への懸念がより強く意識されており、ドイツ産業連盟(BDI)は2019年1月に公表した提言の中で、ドイツ企業に対して中国依存を改めるよう促している。ドイツと中国の経済関係独中間の直接投資残高は独中双方で2016年まで右肩上がりで増加してきたが、2017年以降横ばいとなっている。これは2016年の中国企業による独産業ロボットメーカーのクーカ社買収を機にドイツの対内投資規制が段階的に強化されたことが影響している。貿易については、ドイツにとって中国は2016年以降5年連続で最大の相手国となっている。但し、ヴィシュグラード・グループ(V4:ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキア)を一つのパートナーとしてみるとV4が輸出入ともにドイツにとって最大の相手となっている。また最大の輸出品目である自動車本体についても中国は米、英に次ぐ三番目の輸出先に留まっていることから、ドイツは貿易面で中国にのみ依存をしているとは言えない。しかし、個別の自動車会社の販売台数を見ると、進出先での生産と販売を含むため、2019年時点で、フォルクスワーゲンは4割、メルセデスベンツの3割を中国市場が占めている。また電話機(スマホ)の輸入の5割以上を中国が占めており、こうした点において、ドイツ経済の中国への依存度は高いと言える。ドイツ国民の対中国感情中国に対してネガティブな感情を抱く割合はチベットの人権問題が注目された2006年から2008年にかけて33%から68%に急増。その後微減する傾向が続いたが、2018年、香港問題が脚光を浴びる中で再び増加に転じている。ただし、そのペースは、英、日、米と比較すると緩やかである。また、2020年9月に実施された「中国と聞いて最初の思いつくことは?」との質問への回答を見ると「COVID-19」が最多、「人権侵害」や「独裁」は、「人口超過」、「安価な製品」、「フード」等とほぼ同等となっている。今後のドイツの対中政策の見通し2021年9月の選挙の結果を受け、12月、SPD-緑の党-FDPの三党連立政権が誕生した。緑の党やFDPは、過去16年政権を担ってきたCDU/CSUと比して、中国の人権問題等について一歩踏み込んだ主張をしている。そのため、今後の対中国政策は人権問題等により重心が置かれる可能性がある。一方、両国の強い経済関係等を考慮すると急激な方針転換はドイツ経済に悪影響を及ぼす可能性が高い。従って、これまで通り、経済と人権のジレンマの間でバランスをとった関係が模索されることが見込まれる。〈エグゼクティブサマリー〉34 ファイナンス 2022 Feb.SPOT

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