ファイナンス 2022年1月号 No.674
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が改訂され、TCFDに準拠して気候変動リスクを分析し情報を開示することが来年4月に立ち上がる東京証券取引所のプライム市場への上場要件となります。英国では法律上の義務化に向けて動いています。EUも今年4月に、企業の気候変動関連の情報、正確に言うと、持続可能性関連の情報を開示する法令案を出しています。今まで1万1千社が開示してきた持続可能性に関する情報開示に関して、5万社まで拡大することと、特に気候変動に関してはTCFDに準拠することを盛り込むのが柱です。EUは、2030年の目標である「1990年比で少なくとも55%削減」を達成するための手段として、炭素国境調整メカニズム(CBAM)を導入するという提案を今年の7月14日に行いました。CBAMは、EU域外から輸入される産品の輸入者に対して、域外で産品が製造される過程で排出されたCO2など温室効果ガスの排出量に応じて、EU域内の同じ産品の製造者が支払うのと同じ水準の支払を行うことを求めるものです。2023年から、鉄鋼、アルミニウム、セメント、化学肥料、電力の5品目について、製造過程での排出量の報告制度を始め、2026年1月1日からは実際に支払いを求めることが提案されています。これら5品目の日本からEUへの輸出量は相対的に小さく、当面、日本への大きな影響はないと思いますが、2026年に本格始動する前に、ほかの品目にも広げていくかどうか検討されることになっています。これまでの欧州議会の議論は「できるだけ多くの産品、できればすべての産品に適用したい」となっており、日本に対する影響を注視していく必要があると思います。5.日本企業によるカーボンニュートラル目標先行してパリ協定と整合的な目標を掲げる日本企業は、日々増えています。現在、国際的なSBTイニシアチブ(SBTi:Science Based Targets Initiative)で、日本企業128社がパリ協定と整合的な目標を設定していると認定され、1.5℃目標を掲げる企業も53社あります。日本を代表する企業が多いのですが、最近では中小企業も増えています。排出削減の一つの方法は再生可能エネルギーの導入ですが、自社使用の電気を100%再生エネルギーにする企業のイニシアチブ(RE100)に参加する日本企業は約60社に増えています。大手ガス会社、電力会社は2050年カーボンニュートラル目標を掲げています。鉄道や航空会社といった多くのエネルギーを使う交通系の企業、化石燃料を採掘・供給してきたエネルギー企業も同様で、中長期的にビジネスポートフォリオを変える戦略と併せて目標表明しています。2050年カーボンニュートラルは、菅総理の表明以降、ほぼデフォルトの目標であり、企業はそれを前提に、相応する2030年の目標をどう設定するかに大きな関心があります。2021年4月の菅総理の2030年目標の表明以降、様々な企業が目標表明を行っています。大手金融グループ、生命保険会社などに共通しているのは「投融資先の排出削減目標」を決め、その2050年実質ゼロをめざしていることです。トヨタ自動車は既に2015年の時点で、2050年までの自社のカーボンニュートラルという目標を掲げていましたが、今年、2035年に目標を前倒しして、取引先である下請け企業に具体的な数値目標を持って排出量の削減をするよう要請しています。6.企業がカーボンニュートラルに動く理由なぜ企業はカーボンニュートラルに動くのかというと、ひとつは、これからさらに大きくなることが予測される気候変動の悪影響とリスクへの対応です。共通して一般的な理由が、2つあります。1つ目は企業がサプライチェーンの脱炭素化に注力するようになってきたこと、その結果、取引先は対応せざるを得なくなり、連鎖的に広がっていくという構図です。もう1つは金融市場、特に資本市場だと思いますが、どれだけ気候変動対策ができているかが、企業の評価の軸になってきています。したがって、企業は、気候変動問題という社会課題にどう対応していくのかはもちろんのこと、金融市場や取引先からの評価を左右する問題にもなっており、まさに本業の問題になっています。ここにうまく対応できないと日本の産業競争力の問題にもなるということです。 ファイナンス 2022 Jan.78夏季職員トップセミナー 連載セミナー

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