ファイナンス 2022年1月号 No.674
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財務総合政策研究所Ministry of Finance, Policy Research InstituteⅠ. 「今そこにある危機」-現実化・深刻化する気候変動のリスク1.近年の日本の気象災害みなさんも感じていらっしゃると思いますが、近年、日本では大きな自然災害に連続して見舞われています。2018年7月の西日本豪雨では、岡山県、広島県、岐阜県などで大きな被害が生じ、200名を超える方の命が失われました。その後の夏は記録的な高温となり、ピーク時には「災害級」と言われるほどの暑さでした。9月には台風21号、台風24号が関西地方などを襲い、関西国際空港の水没や、電力インフラへの影響など非常に大きな被害が発生しました。2019年も9月に台風15号が房総半島を襲い、電力インフラに大きなダメージを与えました。10月には台風19号が襲来して、東日本に大きな被害をもたらしました。浸水などにより工場の操業が停止し、サプライチェーンを通じて、被害を受けた地域外の経済活動にも影響が及びました。2.気象災害による経済損失2018年の台風21号と西日本豪雨による経済損失は推計230億米ドルで、この年の日本における損害保険金支払額は1兆円を超えています。地震保険と単純には比較できませんが、これは東日本大震災時に損害保険会社が支払った金額を超える水準です。2019年には台風19号と台風15号の経済損失が世界1位と3位を占め、合計で2兆7千億円超の経済損失となりました。この年も損害保険会社の保険金支払額は1兆円を超えています。比較的被害額が小さかった2020年においても、九州の球磨川の氾濫を引き起こした7月の豪雨は85億米ドルの経済損失と推計されています。こうした災害がすべて気候変動の影響によるものということではありませんが、例えば、雨に関して言えば、人間活動からのCO2排出により雨の量が6%~7%程度押し上げられていると評価されています。想定を超えるような雨の降り方をもたらしうる、そういう押上げ効果を気候変動がつくりだしていると言えると思います。気象災害の経済損失額は世界的にも増加し、2020年は2,680億米ドルで、今世紀の年平均損失額を約8%上回っています。3.IPCC第6次評価報告書2021年8月に発表されたIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書によると、IPCCは活動を始めて30年経ちますが、はじめて「人間活動が大気、海洋、陸域の温暖化を引き起こしていることに疑いはない」と断定しています。実際に世界の平均気温は、19世紀後半と比較して既に約1.1℃上昇していて、陸域では1.6℃上昇しています。気温の上昇に伴って異常気象の頻度や強度が大きくなるという予測も示されています。この報告書では、将来の社会経済の在り方によって、5つの排出経路、シナリオを想定して、気温上昇などの将来予測が示されています。今から徐々に、あるいはかなり急速に世界の排出量が減るシナリオが2つ、そして、2050年頃まではあ令和3年8月27日(金)開催夏季職員 トップセミナー高村 ゆかり 氏(東京大学未来ビジョン研究センター教授)2050年カーボンニュートラルに向かう世界演題講師75 ファイナンス 2022 Jan.連載セミナー

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