ファイナンス 2022年1月号 No.674
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る可能性がある国も多く、グリーン化に向けた投資や、気候変動に適応したインフラ整備の必要性が指摘された。デジタル化に関しては、アジア諸国ではネットを介した取引や消費の拡大が急速に進んでおり、経済成長のエンジンとなっているため、VAT(付加価値税)や法人税をデジタルに提供されるサービスに適用していくとともに、構造的な失業やプライバシーの問題に適切に対処していく必要性が指摘された。セッション1:Strengthening the Credibility of Public Finances1. 財政の信頼性の強化についてPaolo Mauro IMF財政局副局長は、IMFが2021年10月に発表したFiscal Monitorの第2章に基づき、コロナのショックによって政府債務が増大した下で、財政運営の信認をどのように強化すべきかを説明した。多くの国で政府債務が大きく増加し、経済の回復とともに時間をかけて低下させていく必要があるが、その際には強固な財政運営の枠組みやルール(Fiscal Framework)を設けることが、信認を高め、資金調達を容易にすることが強調された。一方で、(1)財政の持続可能性確保(sustainability)、(2)簡素でわかりやすいルール(simplicity)、(3)経済安定のための柔軟な対応(stabilization)の3つを同時に実現するのは難しく、国やおかれている状況や文脈によってとるべきルールが異なり、柔軟性を持った対応が必要であること、政治的コンセンサスを得ることのできるコミュニケーションの重要性、財政の透明性が重要であることが指摘された。2. アジアにおける財政リスクと強靭な財政枠組みJohn Beirne ADBIリサーチ・フェローは、アジア諸国の財政リスクと財政ルールについて、コロナ後に向けてどのような取組みが必要とされるかを、具体例を紹介しつつ説明した。発表では、コロナショックの下で政府債務が増加するとともに、気候変動による災害や海面上昇などへの脆弱性が高いことが、財政リスクを高めることが強調された。今後、「強靭な財政」(scal resilience)を実現するためには、長期的に健全な財政状況を維持しつつ短期的な財政ニーズとのバランスをうまくとること、国内での税収を確保すること、中期の財政枠組み(scal framework)を注意深く設計していくことなどが重要であることが指摘された。セッション2:Digitalization of Government Operations1. 政府の運営と政策のデジタル化(GovTech)Ruud De Mooji IMF財政局アシスタント・ディレクターは、デジタル化が政府の業務運営や政策にどのような影響を与えることになるのかを俯瞰して説明した。IMFが2018年に刊行した本(Digital Revolutions in Public Finance)を紹介しつつ、徴税や支出管理などがデジタル化によって大きく効率性が高まる「政策の改善」、デジタル化によって新たに可能となる税制などの「政策のイノベーション」、プライバシーやセキュリティー、デジタル化がもたらす分断などの「政策の課題」の3つの側面があることを強調した。また、IMFでは、各国政府のデジタル化に向けた能力開発支援を行っており、途上国や新興国におけるデジタル化の成功事例を相互に共有することの重要性を指摘した。2. インドにおけるデジタル化による財政運営改革インド財務省のDharitri Panda Controller General of Accounts(CGA)は、インド政府による財政運営システムについて説明した。インドでは、PFMS(Public Financial Management System)の活用によって、年間約2,500~3,000億米ドル(約1,300億件の取引)の政府からの支出が処理されており、コロナウイルスのショックの下においても、政府による景気刺激策やワクチン調達、国民IDを活用した現金給付等がPFMSを通じて行われた。PFMSでは、RBI(中央銀行)と31の州政府がウェブポータル上で情報共有ができるようになっているため、シームレスなサービスや情報の提供が可能となっている。現在は、PFMSに人工知能や機械学習等の技術を取り入れる開発を現地コンサル企業と協力しながら進めているとの説明があった。3. COVID-19に対するKPFISの対応韓国の企画財政部に、2016年に超党派の支持の下で設立された財政管理機関であるKPFIS(Korean 73 ファイナンス 2022 Jan.連載PRI Open Campus

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