ファイナンス 2022年1月号 No.674
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前章において、地下資金対策がある側面において、官民に亘る共働、即ち事務と責任のバーデン・シェアリングの体系であることを見て来た。FATF基準を軸とした地下資金対策の枠組みは、各国での制度の構築・実施を促すという側面においては、実質的な強制力を持つものであるが、他方で未だ所期の成果を上げられていないという厳しい分析も存在する。そして、その現状の責任は、しばしば須らく民の理解不足や義務の不履行に転嫁されがちであるが、そもそもの制度設計・実施の不全について、官のサイドでの自省も行うべきであるとの指摘は、真摯に受け止めなければならない*1。本章では、地下資金対策を巡る、あるべき官民のバーデン・シェアリングという観点から、現状制度の問題点を検討して行きたい。この点が特に問題となるのは、地下資金対策の第二段階に当たる「水際措置」に関連してである(図表1)。第一段階・第三段階については、各アクターがなすべきことは比較的明瞭であり、従って、官民どち*1) Ronald F. Pol, Anti-money laundering:The world’s least effective policy experiment? Together, we can x it, Routledge Taylor & Francis Group, February 2020らの負担によるべきかといった議論は、本質的に生じにくい。一方、第二段階の水際措置については、そもそもここが措置の中核的な部分であることに反比例して、何をどこまで官と民が負担し合うのか、という議■官民のバーデン・シェアリングの具体的な在り方に関し、「水際措置」における、取引に係る法人・自然人の把握という地下資金対策の根幹についての基礎的な制度インフラの整備は、政府の責任において、国際的な取組みとして担われるべき。■法人の実質的支配者(BO)を把握することは、悪意を持った者が法人を隠れ蓑にすることを防ぐ為に、非常に重要。現段階での国際枠組は、最終的な理想形からは程遠いもの。今後、国際社会として実効的な検証メカニズムを構築していく必要あり。■投資誘致策としての黄金パスポート・ビザ制度は、多くの国によって採用されているが、汚職や運用の不透明性から、地下資金対策上も大きなリスク要因。主権事項に関わるため、より広い国際的な取組みで適正化が図られなければならない。要旨IMF法務局 上級顧問  野田 恒平還流する地下資金―犯罪・テロ・核開発マネーとの闘い―マルタのジャーナリスト、ダフネ・カルーアナ・ガリジア。パナマ文書について、実質的支配関係を通じた同国政府高官の汚職、また「黄金パスポート」問題との関連性を調査していたが2017年に暗殺され、その真相の全容は未だ明らかになっていない。 (出典:Continentaleurope, CC BY-SA 4.0)背後にひそむ真の人物を探る6本章の範囲国家間の共働・軋轢各国の制度設計・実施国際規範・基準の形成犯罪収益テロ資金核開発等資金刑事政策外交・安全保障53 ファイナンス 2022 Jan.連載還流する 地下資金

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