ファイナンス 2022年1月号 No.674
55/96

順番にみていき、データが存在するところで提示レートを決定します。順位1から順位3の値が得られない場合に限って、専門家判断が利用されることになっています*30(一方、服部(2021b)で強調したとおり、東京ターム物リスク・フリー・レート(Tokyo Term Risk Free Rate, TORF)では専門家の判断がない点が特徴でした)。JBATAは、「呈示レートの算出・決定において、実際の取引データをはじめとした各種データを優先順位に沿って参照する『ウォーターフォール構造』を導入することで、恣意的なレートの操作を行う余地を極力排除した、客観的なプロセスを実現しています」*31と説明しています。4.3  日本円TIBORとユーロ円TIBORの違い前述の通り、TIBORには日本円TIBOR(DTIBOR)とユーロ円TIBOR(ZTIBOR)がある点も大きな特徴です。基本的に同じ設計がなされていますが、若干違う点に注意が必要です(後述しますが、値そのものは近年その乖離が拡大しています)。前述のとおり、DTIBORは国内の無担保コール市場の実勢を反映すると解釈される一方、ZTIBORの場合、オフショア市*30) なお、全銀協TIBOR改革実施後、「専門家判断」によって呈示レートが決定された実績はありません(全銀協TIBOR運営機関「金利指標改革を踏まえた全銀協TIBORの現状および今後の展望(2021年3月)」を参照)。*31) JBATA「金利指標改革を踏まえた全銀協TIBORの現状および今後の展望」より表現を抜粋しています。*32) 具体的にはDTIBORはみずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行、横浜銀行、三菱UFJ信託銀行、みずほ信託銀行、三井住友信託銀行、新生銀行、あおぞら銀行、BNPパリバ銀行、信金中央金庫、商工組合中央金庫、農林中央金庫の15行である一方、ZTIBORは、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行、横浜銀行、三菱UFJ信託銀行、みずほ信託銀行、三井住友信託銀行、JPモルガン・チェース・バンク・ナショナル・アソシエーション、ドイツ銀行、BNPパリバ銀行、信金中央金庫、商工組合中央金庫、農林中央金庫の14行です。*33) DTIBORおよびZTIBORのウォーター・フォール構造の詳細は一般社団法人全銀協TIBOR運営機関による「全銀協TIBOR行動規範」を参照してください。場の実勢を反映していると解釈されます。これ以外の点でも両者には違いがあります。例えば、DTIBORとZTIBORではレファレンス・バンクが若干異なります。レファレンス・バンクは変化しうるものですが、2020年度についてDTIBORは15行、ZTIBORは14行であり、前者に比べ、後者は外国の金融機関がより多く含まれるなどの特徴があります*32。DTIBORは国内の無担保コール市場、ZTIBORはオフショア市場の実勢を反映すると説明しましたが、これに伴い、ウォーター・フォール構造も異なります。具体的には、第1層で参照している市場が、DTIBORの場合、無担保コール市場を参照する一方、ZTIBORは本邦オフショア市場を参照しています*33。図表8はDTIBORのウォーター・フォール構造を示していますが、ZTIBORのウォーター・フォール構造を図8を用いて説明すると、第1層と第2層が入れ替わるイメージです。DTIBORとZTIBORのどちらが良く活用されるかはケース・バイ・ケースです。邦銀の貸出という意味では、DTIBORの方が良く使われるという意見もありますが、前述のとおり、ZTIBORは我が国で取引されている金利先物の原資産になっており、市場参加者の注目はこちらの方が高いと見ることもできます。図表8 日本円TIBOR(DTIBOR)のウォーター・フォール構造※1 Negotiable Certicate of Deposit(譲渡性預金)の略称で、満期日前の中途売買(期間中の譲渡)が可能な預金です。短期金融市場で売買が行われています。※2 現金担保の付いた債券貸借取引(いわゆる債券レポ取引)の手法の一種で、資金の調達・運用を目的に、銘柄を特定せずに(=General Collateral)債券の貸借を行う取引です。※3 Overnight Index Swapの略称で、わが国では、一定期間の無担保コール翌日物レートを変動金利として、固定金利と交換する取引が行われています。※4 専門家判断は、各リファレンス・バンクの呈示責任者や担当者が専門家として判断し、レートを呈示するものです。大規模災害による金融市場の急激な混乱時等、予め想定しがたい事象が発生し、順位1~3が存在しない場合においても、利用者が適切に短期金融市場の市場実勢を把握できることを企図し、ウォーターフォール構造の最下層(順位4)に残置しています。(出所)一般社団法人全銀協TIBOR運営機関資料より筆者作成順位1無担保コール市場のデータ①無担保コール市場の当日の実際の取引データ②無担保コール市場の各種気配値③無担保コール市場の過去の実際の取引データ順位2無担保コール市場に準じるインターバンク市場のデータ①本邦オフショア市場および銀行間NCD(※1)市場の当日の実際の取引データ②本邦オフショア市場の各種気配値③本邦オフショア市場および銀行間NCD市場の過去の実際の取引データ順位3ホールセール市場を含む関連市場のデータNCD取引(一部除く)、大口定期預金取引、短期国債市場、GCレポ(※2)市場、OIS(※3)市場データ順位4専門家判断(※4)順位1~3すべて存在しない場合 ファイナンス 2022 Jan.50金利先物およびTIBOR入門SPOT

元のページ  ../index.html#55

このブックを見る