ファイナンス 2022年1月号 No.674
54/96

して公表される点です。その意味で、LIBORとは異なり、2022年以降も、TIBORを活用することができます。しかし、服部(2021)で指摘してきたとおり、LIBORの公表停止は構造的な問題であり、LIBORの算出方法と本質的に同じことを考えると、LIBORが公表停止されるにもかかわらず、TIBORがLIBORの代わりとして活用されるとすれば、読者からすれば不思議な気がするかもしれません。その一方で、LIBORに似た指標金利が存続するという現象は我が国だけではない点にも注意が必要です。例えば、欧州では欧州銀行間取引金利(EURo InterBank Oered Rate, EURIBOR)が存在していますが、EURIBORはTIBORと同様、2021年以降も残ります(EURIBORはEuroのLIBORより流動性があるとされています)*27。LIBORについては改革を実施した上でも公表停止し後継金利への移行を目指すべきとの判断がなされた一方、TIBORやEURIBORでは改革を行って頑健性を向上させた上で公表を継続するという異なるアプローチがとられたと言えます。TIBORについても、LIBOR同様、国際的な議論*28を踏まえた改革が進められてきました。具体的には、2013年に金融庁が「金利指標の規制の在り方に関する検討会」を実施し、国際的な議論の動向も踏まえ、*27) EURIBORは、欧州の主要銀行が欧州時間午前11時に公示する銀行間貸出スポットレートを基に算出しており、欧州マネーマーケット協会(European Money Markets Institute, EMMI)が公表しています。*28) 2013年7月には証券監督者国際機構(IOSCO)が金融指標に関する原則(「IOSCO原則」)を公表したほか、2014年7月に金融安定理事会(FSB)が公表した報告書では、LIBOR、EURIBOR、TIBORといったIBORについて頑健性・信頼性を高めるための取組みを進めるとともに、リスク・フリー・レートの構築も進め、それぞれの金利指標を金融商品や取引の性質を踏まえて利用していく「マルチプル・レート・アプローチ」を提言する等、IBOR改革が国際的な潮流となっていました。*29) 全銀協TIBOR運営機関は「特定金融指標算出者」として指定を受け、2015年11月、業務規程について、内閣総理大臣の認可を取得しています。2015年5月、金融商品取引法に「金融指標に関する規制」が導入されました。LIBORについては英国銀行協会 (British Bankers Associations, BBA)からインターコンチネンタル取引所(Intercontinental Exchange, ICE)へ算出機関が変更しましたが、TIBORについても、TIBORを算出していた全銀協が全銀協TIBOR運営委員会を立ち上げ、利益相反を防ぐために、前述のJBATA*29という独立機関が設立されました。それに伴い、TIBORを構築するうえで順守すべき諸々の規定が作られました。2017年7月から全銀協TIBOR改革の実施がなされています。服部(2021a)でLIBOR改革において「ウォーター・フォール構造」の導入がなされた点を説明しましたが、TIBORについても同様の措置がとられています。図表7に記載しているとおり、各レファレンス・バンクごとに、ウォーター・フォール構造に基づき、市場の実勢に反映したレートを算出します。そのレートを各行がJBATAへ提示し、そこからトリム平均をとることでTIBORを算出するわけです。ウォーター・フォール構造は、服部(2021a)で説明したとおり、実際の取引に近い値から採用してく方法です。日本円LIBOR(DTIBOR)について詳細は図表8に記載されていますが、順位1から順位3まで図表7 TIBOR改革後におけるTIBOR算出のイメージインターバンク市場呈示されたレートをもとに、TIBORを算出TIBORのデータを情報提供会社へ連絡(公表へ)各種取引での利用へ(出所)一般社団法人全銀協TIBOR運営機関資料より筆者作成取引レート呈示リファレンス・バンクB銀行取引リファレンス・バンクC銀行リファレンス・バンクA銀行ウォーターフォール構造を導入JBATAレート呈示ウォーターフォール構造を導入レート呈示ウォーターフォール構造を導入49 ファイナンス 2022 Jan.SPOT

元のページ  ../index.html#54

このブックを見る