ファイナンス 2022年1月号 No.674
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の場合、先物金利は2%(=100-98)であることを意味しました。前述のとおり、先物とは予約取引ですから、ここで98円で先物を買うとは2%で、(満期である)9月から3か月間運用することを確定させることと理解できます。ユーロ円金利先物は1枚1億円でしたから、読者がユーロ円金利先物を1枚購入した場合、50万円(=2%×1億円×0.25年)の利息収入を9月からの3か月の運用で得ることができます。ここでその後、最終取引日までに金利先物の価格が変化した場合、どのような形で50万円の利息収入が確定されるかを数値で確認します。ここでは最終取引日を9月20日とし、9月20日に投票のメカニズムでZTIBORが1.5%に決まったとします(投票のイメージは服部(2021a)を参照してください)。この場合、最終決済価格は98.5円(=1.5%)となり、1bps動いた場合、2,500円の損益が動くことを思い出せば、1枚ロングしていた読者は12.5万円の利益(キャピタル・ゲイン)を得ることができます。一方、読者は9月20日のTIBORである1.5%で運用できると想定すれば、元本1億円を3か月運用すれば、37.5万円(=1億円×1.5%×0.25年)の利息収入(インカム・ゲイン)が得られます。この結果、読者が得られる利益はキャピタル・ゲインとインカムゲインを合わせて50万円(12.5万+37.5万)となり、前述した50万円と一致することがわかります。この例からユーロ円金利先物を98円で購入した場合、最終取引日以降の3か月間の金利を2%に固定できることがわかります。すなわち、金利先物を購入した場合、その先物金利が(最終決済価格を決める)TIBORと乖離した場合、それを埋め合わせる(相殺する)利益を先物を通じて得られるため、当初予定した予約効果が得られるわけです。もっとも、この例からもわかるとおり、先物の決済は契約の満期になりま*21) ハル(2016)ではヘッジ量の調整などで対応する事例が紹介されています。詳細はハル(2016)の第6章などを参照してください。*22) 筆者の意見では、このように重複しない仕組みになっている理由が様々な限月の流動性が生まれていることの一因です。すが利息はその3か月後に支払われるなどの特徴があり、実務的にヘッジに用いる場合、そのヘッジ効果が完璧に得られない可能性がある点については注意が必要です*21。3.3  ユーロ円3ヵ月金利先物はどの期間の予約(予測)をしているか詳細は後述しますが、TIBORはLIBORと基本的には同じように定められるため、TIBORは「前決めターム物金利」という特徴を持ちます。服部(2021a)で説明した通り、前決めターム物金利とは、現時点で将来にわたる(例えば3か月間の)金利が確定するという特徴を有しますから、9月限のユーロ円金利先物を購入するとは、(原資産が3か月ZTIBORであることを考えると)9月からの3か月間の金利を予約することになります。そのため、3月限であれば3月から始まる3か月金利、6月限であれば、6月から始まる3か月金利を予約した取引と解釈できます。言い換えれば、金利先物の場合、各限月が特定の3か月の予約になっており、その予約期間が重複しないという特徴があります(図表4を参照)*22。そのため、予約金利を「予測」と解釈すれば、金利先物の価格をみるだけで、長期にわたり、特定期間の3か月金利に関する投資家の予測を直接観察できることができます。このことから海外の市場では金利先物の価格に立脚して中央銀行の利上げ・利下げ予測をする傾向があります(金利先物を利用した利上げ・利下げ予想については次回の論文でフェデラル・ファンド金利先物(いわゆるFF金先)の事例を用いて説明します)。もっとも、円金利の利上げ予想については後述する流動性の観点からユーロ円金利先物は用いられずオーバー・ナイト・インデックス・スワップ(OIS)のカーブに基づいてなされる傾向にあります(OISや金利スワップ図表4 各限月と予約(予測)期間の関係時間3月6月9月12月3月3月限が予測(予約)する期間6月限が予測(予約)する期間9月限が予測(予約)する期間12月限が予測(予約)する期間(注)厳密には各限月の決済日からの3か月間の予約(予測)をしています。 ファイナンス 2022 Jan.46金利先物およびTIBOR入門SPOT

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