ファイナンス 2022年1月号 No.674
49/96

多彩なストラテジー戦略満期が遠い限月まで売買されている金利先物の特徴として多彩なストラテジー取引が挙げられます。例えば、カレンダー・スプレッド取引は任意の二つの限月の買いと売りを組み合わせた取引です。また、金利先物では、連続する4限月(1年分)をまとめて取引するパック取引や、連続する8、12、16、20限月をまとめて取引する(例えば直近の限月から2年後や4年後までの先物をまとめて取引する)バンドル取引などのストラテジー戦略もあります*10。満期については年ごとに配色コードが付されています*11。具体的には図表2のように満期が1年未満の先物については白、満期が1年以上2年未満は赤などの形で配色が付されています。配色コードは実際の取引やブルームバーグの機能など様々な場面で用いられます(実務家の資料などでも説明なく配色コードがでてきます)。前述のパック取引でも用いられており、例えば、ホワイト・パックであれば第1から第4限月をまとめて売買することを意味します。図表2 金利先物の配色コードと年限配色コード年配色コード年白1紫6赤2オレンジ7緑3ピンク8青4シルバー9ゴールド5カッパー10差金決済金利先物は差金(現金)決済である点も特徴です。日本で取引される国債先物では、残存7年から11年の国債の中から先物の売り手が選んで受け渡す現物決済でした。もっとも、金利先物では、短期金利を原資産としているため、そもそも受け渡すことができません。そのため、金利先物では、日経先物などのように最終取引日の時価で決済を行う差金決済がとられてい*10) これらの具体例を知りたい読者はBurghardt(2003)などを参照してください。*11) ホワイト・パック(第1から第4限月)、レッド・パック(第5限月~第8限月)、グリーン・パック(第9限月~12限月)、ブルー・パック(13限月~16限月)、ゴールド・パック(17限月~20限月)というように、パック取引において、どの年限のパックを取引するかを指定するために、配色コードが使われています。*12) メラメド(1997)では「1981年、マーカンタイル取引所は、最初の差金決済の先物商品として、ユーロドル金利先物を上場して、世界の先物市場の歴史に一頁を加えた」(p.140)と説明しています。*13) 後述のとおり、ユーロ円TIBORは1990年代半ばに全銀協が算出するようになりますが、ユーロ円金利先物についても商品性を変更しており、現在の形になっています。*14) Act/360とは、金利の計算を考えるため、年間を360日とするという慣習です。タックマン(2012)では、「一般にマネー・マーケットにおける単利はactual/360(実日数/360)という慣行に基づいて計算されている」(p.59)としています。ちなみに、ハル(2016)に記載しているとおり、利子計算のコンベンション(デイカウント・コンベンション)は、(1)Actual/Actual、(2)30/360、(3)Act/360に分かれます。日本の場合、30/360は社債などで用いられます。ます。金融先物において差金決済が初めて用いられたのはユーロドル金利先物とされています*12。金利先物には、その他にも証拠金や値洗い、サーキットブレイカーなど通常の金融先物が有する特徴を持っています。ただ、これらの制度的な背景は基本的に国債先物と同じであるため、筆者が記載した「日本国債先物入門」などを参考にしてください。3ユーロ円金利先物3.1  ユーロ円3ヵ月金利先物(ユーロ円 金利先物)とは日本においては現在、東京金融取引所(Tokyo Financial Exchange, TFX)においてユーロ円3ヵ月金利先物(いわゆるユーロ円金利先物)が取引されています。この先物の最大の特徴は原資産が3か月のユーロ円TIBORである点です(実務家はユーロ円TIBORを「ZTIBOR」といいます)。歴史的には1980年代後半に、東京金融取引所(当時は東京金融先物取引所(Tokyo International Financial Futures Exchange, TIFFE))でユーロ円金利先物が作られましたが、当時は他国において円LIBORを原資産とする金利先物が取引されていたため、その差別化という観点で我が国の金利先物はユーロ円TIBORが原資産とされました*13。TIBORにはユーロ円TIBOR以外にも日本円TIBOR(実務家はこちらを「DTIBOR」といいます)が存在していますが、TIBORそのものについては4節で詳細に説明します。図表3がユーロ円3か月金利先物の商品性です。原資産(取引対象)はユーロ円TIBOR(3か月)であり、想定元本は1億円です。金利の計算のデイカウント・コンベンションはAct/360*14です。最小変動幅(価値)は0.005円(0.5銭)ですが、想定元本が1億円であるため、読者が1枚ポジションを持った場合、1bps動くと2,500円の損益が発生します(表では ファイナンス 2022 Jan.44金利先物およびTIBOR入門SPOT

元のページ  ../index.html#49

このブックを見る