ファイナンス 2022年1月号 No.674
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用することは、3か月後に3か月間100円調達するキャッシュ・フローを複製できていることになります。このポジションを作るために読者は金利負担が発生しますが、このコストがこの予約取引のためのコストと解釈することが自然です(ここで複製したキャッシュ・フローとフォワードのキャッシュ・フローは同一ですから、両者のコストに差があると裁定機会が発生します)。この事例では6か月債の発行により年率2%でコストを負担する一方、3か月債への運用により1%の利回りが得られますから、(6か月債を発行して3か月債で運用するというポジションは)年率3%のコスト負担が発生します*8。このコストは3か月後に3か月間100円調達するキャッシュ・フローを作るうえで必要となるコストですから、3か月後の資金調達を予約した場合の金利(3か月先3か月間のフォワード・レート)は3%と解釈できます。このことからフォワードのプライスはイールドカーブの形状により決定されることがわかります。前節で3%で予約する事例をあげましたが、(3か月後スタートの事例ではありますが)このケースも将来の短期間の調達コストを3%で予約できるという取引です。繰り返しになりますが、フォワード契約と金利先物は前者が店頭取引、後者が取引所取引という制度的な違いはありますが、その違いを捨象すれば金利先物を購入することは、上述のポジション(6か月債発行+3か月債ロング)と同じキャッシュ・フローをもたらすがゆえ、先物のプライスも(フォワードと同様)イールドカーブの形状(この事例では3か月金利が1%であり、6か月*8) 100円を2%で半年調達すると、2%×100/2=1円の金利の支払いが発生します(利回りは年率で定義されているため、1/2を掛けている点に注意してください)。一方、100円を1%で3か月運用すると、1%×100/4=0.25円の金利が得られます。この場合、3か月分のコストとして0.75円支払うことを意味しますが、これは年率で3%の利払いに相当します。円金利の利払いは半年に1度であるため、複利を考える必要はありません。*9) フェデラル・ファンド金利先物(いわゆるFF金先)のように1か月毎に限月が設定されているものもあります。金利が2%)で決定されると理解することが大切です(繰り返しますが先物価格はあくまで「100-短期金利」でクオートされていると意識することが大切です)。実際に先物を買った際にどのように予約できているかはユーロ円金利先物を用いた事例で後ほど説明します。ちなみに、ここでは先物とフォワード(先渡)の違いについて焦点を当てていませんが、両者には証拠金の有無などの違いがあります。先物と先渡の違いについては服部(2020a)で詳細に説明していますので、関心がある読者はそちらを参照してください。2.4 金利先物のその他の特徴長期にわたる限月の設定金利先物が有するその他の特徴を確認します。まず、金利先物の大きな特徴は、長期にわたり限月が設定されており、その限月に流動性がある点です。典型的には、3,6,9,12月を満期していますが(毎月設定されるケースもあります*9)、例えば、ユーロドル金利先物などは5年後など満期が遠い限月についても活発に取引がなされています。この事実を初めて知った筆者は非常に驚いたことを今でも覚えています。例えば、3年後の金利先物に流動性があれば、実際の投資家が3年後の短期金利についてどのような予測をしているかを直接観察することができますから、例えば中央銀行の金融政策に関する予測など、多面的な分析ができます(もっとも、後述するとおり、日本の金利先物は流動性が低い点には注意が必要です。海外の金利先物については次回の論文で取り上げます)。図表1 3か月後スタートのフォワードのキャッシュ・フローの複製現在3か月6か月100円100円(1)6か月債を100円で発行現在3か月6か月100円100円(2)3か月債で100円を運用現在3か月6か月100円100円(3)3か月後に3か月債を100円で発行した  ときのキャッシュ・フローを複製可能(注)ここでは(1)6か月債の発行と(2)3か月債の運用により、(3)3か月後に3か月債を発行したときと同じキャッシュ・フローを複製できることを直感的に説明することを企図しているため、利払のキャッシュ・フローを捨象しています。43 ファイナンス 2022 Jan.SPOT

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