ファイナンス 2022年1月号 No.674
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物では「100-金利」という指数を作り、その指数でクオートがなされます。例えば金利先物に97という価格がついていた場合、これは先物金利が3%(=100-97)ということを意味します。このようなクオート方法を「IMM指数方式」といいます(「100-金利」をIMM(International Monetary Market*4)指数といいます)。例えば、9月に決済を迎える金利先物(9月限*5)の価格が97であったとします。この場合、先物金利が3%(=100-97)になりますから、この価格で金利先物を購入した場合、9月からの一定の短期間(典型的には3か月間)の金利を年率3%で予約できるというイメージを持つことが大切です。注意すべき点は、この表示方法は単なる慣習にすぎない点です。タックマン(2012)でもIMM指数は「慣習的な表示方法以上の意味はない」、「割引債の価格を示すものではない」(p.353)と注意を促しています。このような独特なクオートが用いられている歴史的経緯は次のようなものです。そもそも債券の初学者にとって、金利と価格が逆の動きをすることは理解しにくいとされます。国債先物の場合、原資産が国債ですから価格の動きと損益が一致しますが、金利先物については原資産が短期金利ですから金利の動きと(価格の動きから決まる)損益が逆になります(国債先物の場合、150円などの価格がついていますが、これはクーポンが6%の仮想的な証券が上場しており、先物価格はその架空証券の価格でした*6)。そこで、金利先物の価格を「100-金利」とすることで先物価格の上昇(下落)が利益(損失)と一致することとなり、直観的な解釈ができるわけです。金融先物のいわば創始者ともいえるシカゴ・マーカンタイル取引所(Chicago Mercantile Exchange, CME)のレオ・メラメド氏は自身の著書(メラメド(1997))で、金利と価格が逆に動くことが投資家にとってわかりにくいことから、専門家で構成される委員会を作り、討議を重ねたとしています。当時は政府短期証券先物を設立するうえで議論がすすめられたの*4) IMMとは米国のシカゴにある通貨先物市場であり、1972年に創設されましたが、この指標はIMMで作られたため、IMM指数と呼ばれています。*5) 「9がつぎり」と読みます。*6) 詳細は服部・日本取引所グループ(2021)などにゆずりますが、一定の計算式により残存7-11年の国債と満期日に交換できる仕組みがとられています。*7) 読者が6か月債の発行ではなく、6か月間100円を借りて、6か月後に返済する借入れをしたと読み替えても問題ありません。ですが、その過程でIMM指数が提案されました。メラメド氏は上述のわかりやすさの観点から金利先物においてIMM指数が採用されたと説明します。メラメド氏は「このIMM指数の方式は、政府短期証券ばかりか、譲渡性預金証書(CD)や、ユーロドルについても適用され(中略)、世界中の金利先物取引の標準型となった」(p.22)としています。2.3 金利先物とフォワードの関係前述のとおり、先渡(フォワード)と先物の本質的な違いは前者が相対取引であり、後者が取引所取引であるという点でした。そのため、再度強調しますが、フォワードと先物は将来を「予約する」という観点では違いはありません。フォワードについては服部(2019)で比較的丁寧に説明しましたが、ここでは改めてフォワードの価格(金利)がどのように形成されるかについて具体例を用いて確認します。例えば、読者が3か月後に資金調達をする必要があり、そこから3か月間の金利を予約したいとします。その際、現在の3か月金利が1%であり、6か月金利が2%であるとしましょう。この場合、3か月後スタートの3か月フォワードの価格(金利)は次のようなロジックで決まります。まず、読者は利回り2%の6か月債を100円で発行するとします*7(図表1の左上)。もっとも、読者は3か月後に資金が必要であるため、最初の3か月はその資金は必要ありません。そこで、その資金を1%の3か月債で運用するとします(図表1の左下)。これを組み合わせると、図表1の右側のようなキャッシュ・フローが生まれます。すなわち、(100円調達してすぐに3か月債で運用するため)今から3か月間はキャッシュを持っていませんが、3か月後に3か月債が100円償還することで100円のキャッシュが得られます。このことは3か月後に100円資金調達をした事と同じ意味を持ちます。一方、6か月債を発行していたことを考えると、6か月後に100円を返済することになります。これらを考えると、(1)6か月債を100円発行すると同時に、(2)3か月債で運 ファイナンス 2022 Jan.42金利先物およびTIBOR入門SPOT

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