ファイナンス 2022年1月号 No.674
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1はじめに*1本稿では金利先物の仕組みを説明することを目的としています。金利先物は短期金利を原資産とした先物になりますが、各国通貨に基づいた金利先物は活発に取引されており、特にユーロドル金利先物は世界で最も流動性がある先物の一つとされています。もっとも、「金利指標改革入門」で説明したとおり、LIBOR(London Interbank Offered Rate)不正操作を発端として金利指標改革が始まり、LIBORの代替的な指標が採用されました。これに伴い、ユーロドル金利先物など世界中の金利先物が変更を迫られています。本稿では金利先物の基本的な設計を説明した後、我が国で取引されている金利先物であるユーロ円金利先物について説明を行います。ユーロ円金利先物の有する最大の特徴は、原資産がユーロ円TIBOR(Tokyo InterBank Offered Rate)である点です。TIBORの算出方法はLIBORと基本的には同じですが、LIBOR消滅以降も存続することからLIBORの代替金利として現在注目を集めている金利指標といえます。そのため、本稿ではTIBORの歴史的な流れや制度に加え、近年の指標改革など包括的な説明を行います。海外の金利先物については紙面の関係上、次回の論文で解説します。なお、筆者がこれまで執筆してきた一連の債券入門シリーズについては金利指標改革などを含め、筆者のウェブサイトにまとめて掲載してありますので、そちらもご参照いただければと思います*2。*1) 本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。本稿につき、コメントをくださった多くの方々に感謝申し上げます。*2) 下記をご参照ください。 https://sites.google.com/site/hattori0819/*3) 本文では運用サイドの視点で説明をすることが少なくありませんが、調達サイドのヘッジとして活用されることもあります。「金利先物の買い」は、裏を返すと、資金調達サイドにおいて、固定化の逆の「変動化」として利用されます。例えば、固定金利調達をした人が、金利先物を買うことで、金利低下(価格上昇)時にプラスが発生し、金利上昇(価格下落)時に、マイナスが発生することで、実質的な変動金利の調達に変換することができます。2金利先物とは2.1 金利先物の仕組み金利先物とは、短期金利を原資産とする先物です。先物の仕組みそのものは筆者が記載した「日本国債先物入門」などで説明しましたが、先物は基本的には予約取引であり、先渡取引(フォワード取引)と類似した取引といえます。両者の最大の違いは、先渡取引が相対取引である一方、先物は取引所取引という制度的な違いでした。先物は上場することで流動性を高めることが可能である一方、商品の標準化や証拠金など制度的な工夫がなされています。日本国債先物では7年国債と交換される仕組みが用いられていますが、金利先物との大きな違いは、金利先物の場合、原資産が債券そのものではなく、「短期金利」である点です。先物取引が予約であることを考えると、短期金利を原資産とする金利先物は短期金利を予約する取引だというイメージを持つことが大切です。例えば、金利先物が現在マーケットで3%で取引されている場合、金利先物を購入(ロング)または売却(ショート)することで、将来の金利を短期間(典型的には3か月間)3%で予約しているというイメージを持つことが大切です*3。2.2 IMM指数方式金利先物の最大の特徴は、クオート(価格の提示)の仕方にあります。先ほどは3%という例を用いましたが、実際には3%という形で価格が付されてはおらず、97という価格が付されています。実は、金利先東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1金利先物およびTIBOR入門―ユーロ円金利先物を中心に―41 ファイナンス 2022 Jan.SPOT

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