ファイナンス 2022年1月号 No.674
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▪おわりに以上、コロナ危機下におけるフランスの医療提供体制改革と失業保険改革の行方について見てきた。政治・行政過程としては、財政問題が関係する現在進行形の両改革テーマを、危機発生下においてもフランス政府は基本的に維持した。時に柔軟に速度調整や政策内容の調整を図りつつも、根幹となる改革理念は維持し、政策を前に進めた。危機時に生じた論点とこれまでの改革テーマを総合的にとらえてアジェンダセッティングをする、危機の出口が予想しづらい段階においても従来の改革路線のゴールを見失わず中期的にその路線に復する道筋を念頭におく、といった工夫もあったように思われる。また、両改革とも、給付拡大を伴う大統領サイドの政治的メッセージと制度の持続可能性などに思いをいたす実務サイドの行政的ニーズを融合させた改革パッケージを策定し、それを推し進めている。制度上フランスの大統領権限は強いとされるが、大統領は自分のメッセージが包含されている以上は、他の論点については実務サイドの調整に任せ、ひとたび方針が固まればそれに従っているように見受けられる。フランス政治の文脈では、コロナ危機の発生に伴い、両改革はマクロン政権5年任期のほぼ全期間にわたる政治的調整の営みとなった。そしてその真ん中に、コロナ禍発生が横たわったおり、フェーズを大きく二つに分けている。両改革は、マクロン5年任期の政治を事後的に評価する際、良い切り口を与えてくれるのではないか。来るべき2022年大統領選挙及びその後のフランス政治にどのような含意があることになるのか、関心を呼ぶところである。経済社会政策としては、医療費管理の先進的な取組みを進めてきたフランスが、今般のコロナ危機でいったん拡大した医療費支出をどのように管理していくのか、今後数年のうちに何らか財政的観点からのパッケージ策定などに追加的に取り組むのか、そこにセギュール医療全体会議の結論の各種改革項目がどのように作用することとなるのか、注視に値する。失業保険改革に盛り込まれた各種のインセンティブメカニズムをどのように考えるべきか、失業保険制度そのもの同士ではインプリケーションが少ないかもしれないが、公的保険制度一般あるいはその他経済社会制度全般を考えた場合に、研究の余地があるかもしれない。また、本稿では扱いきれなかったが2017年のマクロン・オルドナンスにおける解雇規制の緩和からはじまる一連の労働市場改革全般を、失業保険改革をその一ピースとしつつ見るとき、その全体像の中に参考とすべきものがあるように思われる。本稿はジェネラリスト的な行政官の目で執筆されており、どの視点からも踏み込みが不十分との誹りを免れないだろう。また現在進行形の事象を扱ったために、後世から見れば認識の不足や洞察の欠落なども多く存在するだろう。本稿が批判的な目で読まれ、より深遠・明晰な考察の契機となるようなことがあれば、と希望しつつ、筆をおくこととしたい。※ 本稿の内容は筆者の個人的見解であり、所属組織の見解を示すものではない。 ファイナンス 2022 Jan.40コロナ危機下におけるフランスの制度改革の行方SPOT

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