ファイナンス 2022年1月号 No.674
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6政府の正面突破作戦この国務院判断を踏まえ、政府は2021年7月1日のプレスリリース*19の中で、失業手当支給額計算方法の厳格化(ニ)については、現行制度をとりあえず9月30日まで適用する一方で、「この計算方法の見直しは短期雇用の激増と闘うために不可欠であり、労働省は国務院に対して9月末までに新計算方法の早期適用を可能とする新しい政令(デクレ)を提示するだろう」と述べている*20。いわば短期のうちに正面突破作戦を図ることを宣言していると受け取れる。2021年7月12日、マクロン大統領も7月14日の革命記念日を前にしたテレビ演説の中で、失業保険改革を貫徹する意思を示す。「労働なくして生産なく、生産なくして必要な政策の財源は生まれない」、「労働は徳である」と謳いあげた上で、「したがって、失業保険改革は10月1日から完全施行されることになるだろう」、「フランスでは、家でじっとしているよりも労働することによって生活をより豊かにしていくことができなければならない。現状必ずしもそうなっていない。」と述べ、国務院に差し止められた失業手当支給額計算方法の厳格化に関する部分も含めて、バカンス明けには全面施行すべきとの強い意思を示した*21。*19) このプレスリリースは、ボーニュス・マリュス制度の参照期間の開始や高額所得者への逓減制導入(ただし受給開始以後8か月経過以降)など一部の制度施行についても言及している。*20) https://travail-emploi.gouv.fr/IMG/pdf/cp_mtei_-_assurance_chomage_-_la_reforme_entre_en_vigueur_ce_1er_juillet_2021.pdf*21) https://www.elysee.fr/front/pdf/elysee-module-18050-fr.pdf*22) 同日の2021年9月16日に、近隣企業連合会(l’Union des Entreprises de proximité(U2P))の会合に招かれた際の演説において、マクロン大統領は以下のような趣旨の発言を行っている。「危機が発生し、失業保険改革は延期された。そして、『施行するためには、労働市場の十分なひっ迫を確認するような経済状況まで待たなければならない』と言われた(筆者注:国務院に)。労働市場のひっ迫はまさに今、生じている。データがそれを如実に物語っている。したがって、この改革が今後数週間のうちに完全実施されることは正当なことである。…この改革は、経済活動の回復と就労のインセンティブ付けに向けた戦略の一環なのであり、自分はこれを断行する任務を負っている。」https://www.elysee.fr/front/pdf/elysee-module-18382-fr.pdf*23) https://www.lexplicite.fr/wp-content/uploads/2021/09/Projet-de-decret-en-Conseil-dEtat-portant-diverses-mesures-relatives-au-regime-dassurance-chomage-16-09-2021.pdf夏の間、2021年5月以降の段階的なロックダウン解除の効果もあり、国務院が差止めの背景として指摘した雇用情勢は改善を続けた。失業手当支給額計算方法の厳格化とは直接関係ないが、例えば失業手当受給要件の厳格化(ロ)や高所得者の手当逓減制(ホ)にかかる二つの雇用指標条項の片方になっているカテゴリーAの求職者についても、順調に低下している状況にあった(図2)。こうした好調な景気雇用情勢を背景に、政府は、2021年9月16日*22、失業手当額計算方法法の厳格化の施行を10月1日とする政令(デクレ)案を労働組合等に対して示し、パブリックコメントを求めた*23。その付属文書の中では、以下のように全面施行が正当化される理由を列挙している。・ 賃金労働にかかる雇用創出の増加、失業率低下、新規採用の増加、求職者数の低下、部分的失業制度利用者数の低下などが見られ、二つの雇用指標条項も巡航速度で行けば9月末には満たされる見通しとなるなど、雇用情勢が急速に回復している。・ 一方で建築関係や一部サービス業においては人材確保に困難も生じており、そうした需給のミスマッチを是正するためにも失業保険改革を全体と(写真2)国務院(Conseil d’Etat)正面(JB Eyguesier / Conseil d’Etat) ファイナンス 2022 Jan.36コロナ危機下におけるフランスの制度改革の行方SPOT

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