ファイナンス 2022年1月号 No.674
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革に伴う歳出合理化策については、徐々にその財政影響が表れ、満年度化後には約23億ユーロ/年に上るとされている*7。先月号の「失業保険改革編・中」表2にあるように、2019年9月時点では約25億ユーロ/年という財政影響が試算されていた。一連の調整を経て、財政的には2億ユーロ/年相当の譲歩をフランス政府が行ったと見ることが可能であろうか*8。(表4)政府裁定を踏まえた改革全体の財政影響(単位:億ユーロ)2021年2022年満年度化後受給要件の厳格化(ロ、ハ)0-7.3~0-8手当額計算方法の厳格化(ニ)ー2.1-9.4-10逓減制(ホ)0-2.6~-2.5-4.6ボーニュス・マリュス制度(イ)0財政中立を前提(Unédicでは推計に必要なデータが不足)計-2.1-19.3~-11.9-22.6(出典)失業保険管理機構(Unédic)4政府裁定に対する反応(1)政府の見解ボルヌ労働大臣は「これは、求職者に広がる不安に終止符をうち、短期雇用契約の濫用という緊急事態に対応するための改革であり、正統なものだ。」「これは正義だ。パートタイムで毎日働いた者が、2日のうち1日や2週のうち1週フルタイムで働いた者のほぼ半分しか手当を受け取れない状況を終わりにする。」「また、2021年3月のデクレはより均衡のとれたものとなった。2019年7月のデクレのままだと、とても低い水準の手当額の受給者が生み出されていた。」と、改革そのものと2021年が明けて以降の政策調整の意義を強調している*9。*7) https://www.unedic.org/publications/etude-dimpact-de-levolution-des-regles-dassurance-chomage-au-1er-juillet-2021*8) それぞれの改革項目が施行となった際の、当初の一年間における雇用への影響についても失業保険管理機構(Unédic)が試算を行っている。失業手当額計算方法の厳格化に伴い115万人の受給者が日額手当の減額の影響を受け、その平均的な減額割合は17%であるとしている。受給要件を満たすための就労期間が4か月から6か月に厳格化されると、1年未満の期間受給開始時期が後ろ倒れる者が28.5万人、1年以上受給開始時期が後ろ倒れる者が19万人生じる。逓減制については、最初の逓減が2022年3月に発動することになる(施行の2021年7月から満8か月経過後)。その3月から6月の間に3.5万人の受給者の手当が減額となり、2022年の下半期は2.5万人の受給者が追加で減額となる。失業保険管理機構(Unédic)は、上記のほか改革の影響を受ける者の年齢・性別・雇用形態・資格免状、セクターなどの別も公表している。*9) https://www.lemonde.fr/politique/article/2021/04/07/pourquoi-l-executif-tient-autant-a-sa-reforme-de-l-assurance-chomage_6075838_823448.html*10) https://www.cfdt-ag2r.com/les-5-syndicats-representatifs-demandent-une-remise-a-plat-de-la-reforme-de-lassurance-chomage/*11) https://www.francetvinfo.fr/economie/emploi/chomage/reforme-de-l-assurance-chomage-le-secretaire-general-de-la-cfdt-laurent-berger-envisage-un-recours-devant-le-conseil-d-etat_4317939.html*12) 2021年3月3日付ル・フィガロ紙22面(写真1)エリザベット・ボルヌ労働大臣(Ministères sociaux / DICOM / Nicolo Revelli-Beaumont / Sipa Press)(2)労働組合の動き政府裁定案提示に先立ち、主要五労働組合は2021年2月23日に先回りする形で共同のプレスリリースを発表し、失業保険改革の基本方針に反対する姿勢を再度確認している*10。政府裁定が下った後、例えばCFDTのローラン・ベルジェ書記長は「この改革は、最も不安定な失業者を狙い撃ちしているという意味で不公正であり、ボーニュス・マリュス制度は2022年まで延期されたという点において均衡を欠いており、今後の失業情勢が見通せない中で経費合理化策を推し進めることは時代錯誤的だ。再度国務院に提訴するだろう。」という趣旨の批判をしている*11。より強硬な労働組合であるCGTは「政府は、不安定な地位や失業状態にある労働者の現実から完全に乖離したまま、この夏からこの改革を実行しようとしている。」と批判する*12。 ファイナンス 2022 Jan.34コロナ危機下におけるフランスの制度改革の行方SPOT

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