ファイナンス 2022年1月号 No.674
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(1)2020年11月の国務院決定への対応第一に、失業手当支給額計算方法の厳格化(ニ)関連では、就労期間の分散の度合いに応じて手当額に大きな差異が生じる点を問題視した国務院決定を踏まえ、参照日額賃金(SJR)を計算する際の分母に算入する未就労期間に上限(就労期間の75%まで)を設けることとした。このような上限がなかった2019年7月デクレ下での手当額と、2021年3月の上限導入に伴う手当額について(さらには現行制度下での手当額について)、個別事例で示せば表2のとおりとなる。このような上限設定により、現行制度と比較した場合の手当額の減少は、どんなに短期就労を分散した場合でも、最大でマイナス43%にとどまると政府は解説をしている(1-(1/(1+0.75))≒0.43)。第二に、国務院判断への対応を図るための政労使間の調整をしているうちに一定の期間が経過したことから、施行日をさらに延期する必要が生じた。雇用指標条項が付された失業手当受給要件の厳格化(ロ)、受給資格の再充填の厳格化(ハ)を除き、ボーニュス・マリュス制度の導入(イ)、失業手当支給額計算方法の厳格化(ニ)、は2021年7月1日からの施行とした。高所得者の手当逓減制の導入(ホ)は、逓減開始時点を手当受給開始後8か月満了以降と遅らせる微修正を付したうえで、やはり2021年7月1日からの施行とした。ただし、ボーニュス・マリュス制度の導入(イ)に*4) 新聞紙上や関係者の間では「よりよい状況への回帰条項(La clause de retour à une meilleure fortune)」などとあだ名を付された。ついて、7月1日から開始するのは、保険料率決定のベースとなる当該企業の短期雇用の利用度合いに関する参照期間であって、その参照期間の実績に応じて、企業負担の保険料率の傾斜が実際に発動となるのは2022年9月が最初と規定されている。政治的には、経営者側の要求に配慮した譲歩、すなわち「事実上の施行延期」ととらえられ、この点が労働組合側の目には「不公平」「非対称」と映り、後述する延長戦の一因となる。(2)コロナ危機の影響への配慮失業手当受給要件の厳格化(ロ)、受給資格の再充填の厳格化(ハ)、高所得者の手当逓減開始時期の受給8か月経過後から6か月経過後への短縮化(ホ)、の3項目に関しては、a)直近6ヵ月にカテゴリーA(積極的な求職活動を行う無職の者)の失業者数が13万人以上減(ストック指標)、かつ、b)一か月以上の契約期間のある採用(臨時雇いを除く)の月当たり事前宣言数の4ヵ月累積値が270万人超(フロー指標)という二条件が充足されて初めて施行されることとなる。すなわち「雇用指標条項」が付されたのである*4。この雇用指標条項が発動となる(両指標が充足し、三項目の改正が施行となる)見込みは2021年春段階の目線でどのくらいあったのだろうか。失業保険管理(表2)改正後(特に上限導入後)における参照日額賃金(SJR)の変化のイメージ(個別事例)事例1(上限なければ手当大幅減)事例2(上限なければ手当小幅減)事例3(上限有無が影響せず)就労契約の分散度合い1550€/月1550€/月1550€/月1550€/月1550€/月1550€/月24か月18か月4か月4か月12か月6か月3か月3か月24か月4か月10か月10か月分子(参照賃金)α1550×4+1550×4=12400€1550×3+1550×3=9300€1550×10+1550×10=31000€分母β1従来制度246.4日(就労176日×1.4)182日(就労130日×1.4)606.2日(就労433日×1.4)β22019年デクレ(上限なし。結局適用されず)730日(最初の就労契約の始期と最後の就労契約の終期の間)365日(同左)730日(同左)β32021年デクレ(上限導入)431.2日(就労176日×1.4×1.75)318.5日(就労130日×1.4×1.75)730日(未就労期間が短く算入上限発動せず)参照日額賃金(SJR)α÷β1従来制度50.32€/日51.10€/日51.10€/日α÷β22019年デクレ16.99€/日25.48€/日42.47€/日α÷β32021年デクレ28.76€/日29.20€/日42.47€/日(出典)失業保険管理機構(Unédic) ファイナンス 2022 Jan.32コロナ危機下におけるフランスの制度改革の行方SPOT

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