ファイナンス 2022年1月号 No.674
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先月号においては、2019年夏前にフランス政府が取りまとめた失業保険改革パッケージの多段階施行を前に、2020年に入るとコロナ危機が発生し、三度にわたる施行延期という撤退戦に政府側が入ったことを見た。2020年秋以降の感染第二波に伴い、単なる施行延期にとどまらず内容面にわたる政策調整も必至な情勢になってきたところに、行政裁判の最高裁判所に当たる国務院(Conseil d’Etat)から、どちらかといえば労働組合側に有利な判断が示された。改革パッケージのコロナ危機後の再設計の年内決着をフランス政府は諦め、政労使の調整は最終幕となる2021年へと持ち越された。*1) https://travail-emploi.gouv.fr/le-ministere-en-action/nouvelles-regles-d-assurance-chomage/*2) フランスの雇用統計上、求職者のカテゴリーにはA,B,Cの三通りがあり、A:積極的に求職活動をしなければならない者で、当該月の間に就業していない者、B:積極的に求職活動をしなければならない者で、当該月の間に78時間以下の労働をした者、C:積極的に求職活動をしなければならない者で、当該月の間に78時間を超えて労働をした者、となっている。*3) https://www.legifrance.gouv.fr/jorf/id/JORFTEXT00004330611212021年年明け、政府裁定年明けの2021年1月25日には、ボルヌ労働大臣が労使8団体と個別に会談し、新年の政労使の話合いをキックオフした。その後幾度かの交渉を経て、3月2日に、労使代表に政府の裁定を提示した。主要4項目にかかる政府の裁定は表1のとおりとなっており、失業保険改革パッケージの各項目の施行時期や内容に調整を加えている*1。*22021年3月30日には、この裁定内容に沿った政令(デクレ)が発出されている*3。2政府裁定の技術的詳細とその留意点政府裁定の詳細を、やや技術的な論点にわたる部分も多いが、一応以下に記載をしておこう(大きな政治・行政過程にご関心の読者は3に飛んでいただきたい)。2021年3月の政府裁定に含まれるこの時点での変更項目は、前年の国務院判断への対応とコロナ危機の影響への配慮に大別できる。在フランス日本国大使館参事官 大来 志郎コロナ危機下におけるフランスの制度改革の行方~失業保険改革編・下~(表1)政府裁定の内容主な改革項目政府裁定による変更のポイントボーニュス・マリュス制度(イ)● 2021年7月1日から、保険料率決定のベースとなる当該企業の短期雇用の利用度合いに関して、参照期間が開始(=制度施行)。※ 参照期間の実績に応じて、企業負担の保険料率の傾斜が実際に発動となるのは2022年9月が最初。※ 危機の影響が大きい、あるいは行政措置の対象となった企業には経過措置を設ける。失業手当受給要件の厳格化(ロ)受給資格の再充填の厳格化(ハ)● 労働市場の回復にかかる以下二つの指標を施行条件として設定:a)直近6ヵ月にカテゴリーA*2の失業者数が13万人以上減かつb)一か月以上の契約期間のある採用の月当たり事前宣言数の4ヵ月累積値が270万人超※ a)、b)の基準の充足を確認した時点から3か月以内を施行日とする施行省令(アレテ)を政府は別途策定する必要。※ これらa)、b)の条件の充足は2021年4月1日を起点として判定するため、実際に改正が施行されるのは早くても2021年10月以降。失業手当支給額計算方法の厳格化(ニ)● 2021年7月1日からの施行とする。● 激変緩和の観点から手当計算に当たっては、減額要因として、算式の分母に算入する対象期間中の「未就労期間」について算入上限(就労期間の75%)を設定。※ なお、労働省は、2021年3月の裁定内容を説明するウェブページの中で、この改正に伴い、日当たりの手当額が減少する場合があるが、それは必ず受給期間の延長を伴うものであり、日額×受給期間の積で表される総受給額は改正前後で不変であることを、再度強調している。高所得者にかかる受給6か月経過後の支給額逓減制の導入(ホ)● 手当受給8ヵ月経過後から逓減すると制度として、2021年7月1日から施行。● 上記a)、b)の条件が満たされて以降は、本来の6ヵ月経過後からの削減とする。(出典)フランス政府公表資料より筆者作成31 ファイナンス 2022 Jan.SPOT

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