ファイナンス 2022年1月号 No.674
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・社会保障関係費は「高齢化による増加分」に相当する伸びにおさめる必要がある。その増加分の算出も厳格化・適正化を行う必要。・診療報酬改定について、薬価については、市場実勢価格にあわせる改定を行ってきたが、薬剤費総額は増加している。診療報酬(本体)については、高齢化等の要因による伸びに更に上積みする「プラス改定」を続けてきたが、「マイナス改定」を続けることなくして医療費の適正化は到底図られない。どちらも高い自然増に基づく要求額が出発点となっている。・足もとの医療費の動向は新型コロナ感染拡大前の水準を上回っている。さらに補助金が収入として加算されるため、医療機関の経営実態は近年になく好調。こうした分析を行う医療経済実態調査は少ないサンプルなどの問題を抱えており、全ての医療法人が提出している事業報告書をアップロードで届出・公表する全国的な電子開示システムを早急に構築すべき。・医療福祉分野においては、現場で働く方々に正しい分配がなされているか精査が必要。介護や保育については、処遇改善の取組が職員の実際の賃金引上げにつながる実効的な仕組みを構築すべき。看護については、高い自然増に基づく処遇改善に充てる原資の存在や診療報酬の医科・歯科・調剤の硬直的な改定率の在り方も含めた分配の方法見直しが必要。・コロナ禍で浮き彫りになった医療提供体制の課題に取り組むべく、「なんちゃって急性期病床」を見直すための地域医療構想の実現やゲートキーパー機能を持ったかかりつけ医の制度化を進め、そのための包括払いも進めるべき。その際、財政支援で医療機能の強化を図ることには限界があり、規制的手法など実態面の改革とあわせて取り組み、「インプット重視」・「量重視」の医療機関本位のいわば「縦突進」型とも言うべき診療報酬体系から、「アウトカム重視」・「質重視」の患者本位かつ医療機関等相互の面的・ネットワーク的な連携・協働をより重視する「横連携」型の体系へシフトすべき。・個別の診療報酬項目についてもPDCAを踏まえ、機能強化加算、地域医療体制確保加算、後発医薬品調剤体制加算などを見直すべきである。また、リフィル処方の導入に取り組むべき。・薬価総額のマクロ経済スライドの導入も検討しつつ、調整幅の廃止をはじめ、聖域ない薬価改定の厳格化に踏み込むべき。・雇用調整助成金の特例については、特に業況が厳しい企業等に配慮しつつ、見直していくべき。また、現状の雇用保険財政の逼迫に対しては、まずは保険料率を戻すことにより対応すべき。他方、今般の新型コロナ禍の対応も踏まえ、平時と有事における国の責任の範囲を再整理する必要がある。1.社会保障令和4年度予算の編成等に関する建議(概要)令和3年12月3日財政制度等審議会〇「例外」からの脱却~新型コロナに対する当初の緊急的対応から「正常化」へ~・昨年来、新型コロナ感染拡大という緊急事態に直面し、経済面でも財政面でも「戦後最大の例外」とも言える状態となった。ウイルスの性質が分からない中で飲食・旅行を中心に経済活動を制限。事業者と家計にかつてない規模の支援を行うなど、昨年度に3次にわたる補正予算を編成。・今後求められるのは、新たな変異株を含め再度の感染拡大への備えをしっかり行いつつ、経済を「正常化」し、ポストコロナの世界において我が国の経済社会が持続的に成⾧できるよう、コロナ禍に炙り出された多くの課題に目を逸らすことなく、改革に取り組むこと。・昨年来の対応を前例とすることなく、経済、財政の「正常化」に取り組み、「例外」から脱却しなければならない。〇我が国財政をめぐる環境変化と対応余力の必要性・全世代型社会保障改革により、受益(給付)と負担のアンバランスを是正し、国民が必要とする社会保障制度の持続可能性を高めることで、特に、現役世代の将来不安を払拭し、希望が持てるようにしていくべき。・短期国債の増加は、金利変動に対する脆弱性をもたらしている。財政状況の悪化を放置して日本国債の格下げが生じれば、日本企業の競争力が低下しかねない。・先進諸外国では新型コロナ対応による財政状況の悪化を踏まえ、財源確保や財政健全化に向けた取組を検討・開始する動き。・「3つのリスク」、すなわち震災等の自然災害や感染症、金利の上昇が起きた際に、危機に対応できる財政余力を確保しておくことが不可欠。〇責任ある財政運営に向けて・プライマリーバランスの黒字化目標を凍結するといった方針変更を行うことなく、財政健全化に向けて着実に歳出・歳入両面から改革を進めるべき。新型コロナ対応により困難な状況に陥っている企業や家計に対する当面の必要な支援と財政健全化目標は両立可能。・財政は国の信頼の礎であり、財政健全化の旗はしっかりと掲げ続けなければならない。〇令和4年度予算編成の課題・骨太2021における「目安」に沿った予算編成を行うとともに、新経済・財政再生計画の「改革工程表」に沿った歳出改革の取組を継続し、着実に財政健全化を進めるという我が国の意思を改めて内外に示すものでなければならない。総論 ファイナンス 2022 Jan.16財政制度等審議会「令和4年度予算の編成等に関する建議」について SPOT

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