ファイナンス 2022年1月号 No.674
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これに対し、例えば英国では大企業の法人税率の引上げを行うなど、先進諸外国は新型コロナへの大規模な対応による財政状況の悪化を踏まえ、財源の確保や財政健全化に向けた取組を検討・開始していることが指摘されている。(2)危機管理としての財政の対応余力の必要性新型コロナは、我が国も想定外の危機と隣り合わせであることを改めて想起させる契機となったことを踏まえ、「3つのリスク」、すなわち震災等の自然災害や感染症、金利の上昇が起きた際に、危機に対応できる財政余力を持っておく必要があるとした上で、そのためにも、財政の「正常化」に取り組んでいくことを求めている。自然災害リスクについては、今後も、南海トラフ沿い地域の大規模地震や首都直下型地震が発生する可能性があり、広範に被害を受ける事態が発生すれば、財政上も大きなリスクとなりうることが指摘されている。感染症リスクについては、パンデミック(世界的大流行)と言われるような感染症が10~40年程度に1度発生してきていることに触れ、財政余力があればこそ、公衆衛生上の緊急事態に対応できることは、論を俟たないとしている。金利の上昇リスクについては、我が国の国債や通貨「円」は、極めて厳しい財政状況の下、その価値を維持する上で、潜在的な脆弱性を抱えており、金利が上昇した場合には、それが急騰と言えなくとも、巨額の債務残高を抱える政府の利払費は極めて大きくなり、政策経費を更に圧迫することになると述べられている。3責任ある財政運営に向けてこれまでに示した諸課題を踏まえれば、プライマリーバランスの黒字化目標を凍結するといった方針変更を行うことなく、財政健全化に向けて着実に歳出・歳入両面から改革を進めるべきであると指摘している。そもそも、財政健全化目標の存在は、足もとの新型コロナへの対応を妨げるものではなく、「例外」からの「正常化」に取り組むことにより、新型コロナにより困難な状況に陥っている企業や家計に対する当面の必要な支援と、財政健全化目標は両立可能としている。そして、「骨太の方針2021」における「財政健全化目標(2025年度の国・地方を合わせたプライマリーバランス黒字化を目指す、同時に債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指す)を堅持する。ただし、感染症でいまだ不安定な経済財政状況を踏まえ、本年度内に、感染症の経済財政への影響の検証を行い、その検証結果を踏まえ、目標年度を再確認する。」との記載に基づき、着実に財政再建を進めていく必要があるとした上で、財政は国の信頼の礎であり、財政健全化の旗はしっかりと掲げ続けなければならないと述べられている。▪令和4年度予算編成の課題令和4年度予算編成については、我が国の財政の厳しい状況を踏まえ、全世代型社会保障改革を進めるとともに、経済・財政一体改革を着実に推進する必要があるとしている。また、「骨太の方針2021」における「目安」に沿った予算編成を行うとともに、新経済・財政再生計画の「改革工程表」に沿った歳出改革の取組を継続し、着実に財政健全化を進めるという我が国の意志を改めて内外に示すものでなければならないと指摘している。さらに、重点分野への選択と集中や、既存予算のスクラップも含めたメリハリ付けを徹底し、歳出全般を聖域なく見直すこと、それぞれの予算項目について、費用に対し最大の効果を発揮する効率的な仕組みを追求することを求めている。そして、新たな財政措置を検討する場合にはペイアズユーゴー原則を徹底し、同時に、応能負担を強化するなど、歳出・歳入両面の改革を着実に実行していくべきと述べられている。政府としては、経済、財政を「正常化」すること、我が国財政をめぐる環境変化や危機に対応できる財政余力の必要性を踏まえて、財政健全化を着実に進めることなどを強く求める今回の建議を、厳粛に受け止め、財政運営や令和4年度編成予算にしっかりと活かしてまいりたい。15 ファイナンス 2022 Jan.SPOT

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