ファイナンス 2021年12月号 No.673
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5.そして、NTN 空と宇宙!(1)NTNのための3つの領域ここまでは海底ケーブルを含むTerrestrial Networkという地表のネットワークについてお話ししましたが、もう1つのインフラ、NTN(Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク)についてお話します。2021年はNTN元年です。つまり、空中と衛星を使った新しいインターネットのインフラが動き出します。日本は現在、5Gのライセンスを4社に割り当てていますが、人が住んでいるところを100%カバーしても、国土は60%しかカバーしていません。人が住んでいないところをカバーするためにはNon-Terrestrial、つまり、空中から見下ろしたインターネットインフラが必要になります。空中のインターネットインフラには、3つの領域があります。1つ目はGEO(Geostationary Earth Orbit:静止軌道<地表からの高度36,000km)の領域です。この領域にあるのは静止衛星です。この領域は地表から遠いためにレイテンシ(通信の遅延時間)があり、金融などには使えないということもありますし、そもそも強い電波はなかなかつくることができません。2つ目はLEO(Low Earth Orbit:低軌道<地表からの高度2,000km以下)の領域です。地表からより近いところでインターネットインフラ整備ができるため、LEOの領域では以前から様々な計画があります。サービス開始は2021年、そういうわけで今年が元年です。3つ目は地表から高度10kmから50km程度のところにある成層圏(stratosphere)です。この領域はあと2、3年でサービスが開始できるようになります。(2)LEOの領域LEOの領域を回る衛星に関して、アジア開発銀行が興味深いレポート(「DIGITAL CONNECTIVITY AND LOW EARTH ORBIT SATELLITE CONSTELLATIONS」)を公表しました。非常に立派な、ほかには類のないレポートです。いわばインターネットインクルージョンのような、デジタル・ディバイド(情報格差)の解消をどうやって進めていくのか、といった議論を盛り込んだ内容ですが、それ以上の意味を持っています。既に多くのLEO衛星が打ち上げられているということが分かります。イーロン・マスク氏のSpaceXという会社がStarlink(LEOの領域を回る大量の人工衛星を用いて衛星インターネットアクセスサービスを提供)のサービス提供を開始しました。LEO衛星を用いたOneWebという衛星通信会社は、倒産して米連邦破産法11条(チャプターイレブン)の適用を受けましたが、チャプターイレブンの後もインフラ整備を続け、そろそろサービス提供ができるようになっています。中国もLEO衛星を始めています。既に周波数の利用領域の隙間ないため、日本は周波数割り当ての考え方も変えなければいけません。LEOの領域を動き回る衛星が、コンピューター処理でGEO領域にある静止衛星の周波数とぶつからないように逃げる技術、そして、非常にシャープなビームでエネルギーを集約する技術が発展してきていますが、これらの技術の発展なくしてはLEO衛星の発展はありません。これをどうやっていくのか、これが日本の周波数政策の問題になると思います。LEOに対する周波数割り当てがうまくいかないと、日本だけサービスインができず、遅れをとってしまいます。例えば、北海道の過疎地域で、山の中で通信をする場合には、LEOの領域でのインターネットインフラ整備が非常に役に立ちますが、それができなくなります。(3)成層圏の領域成層圏に関しては、航空法と宇宙法のちょうど狭間に入っていて、法律のない領域ですが、ここで様々なことが起きています。LOONというGoogleのサービスは、アフリカ・ケニアでサービスインしていました。携帯の基地局をつけた風船を成層圏にあげて、この基地局を介してインターネットアクセスサービスを提供しようとするものです。「HAPS(ハップス)」と呼ばれるドローンは上部がソーラーパネルで、翼が78メートル、ボーイング787の主翼と同じ長さ、6ヶ月飛べる設計で、2000年から米国で開発が続いています。これを成層圏に飛行68 ファイナンス 2021 Dec.連載セミナー

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