ファイナンス 2021年12月号 No.673
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因の一つは、英国のEU離脱(ブレグジット)です。DFFT(Data Free Flow with Trust)、すなわち日本が提唱した「信頼性のある受有なデータ流通」を推進しようとGDPRと米国の自由主義の間で日本が動いてきました。EUから脱退した英国は様々なところで活躍して、DFFTの議論では英国がとても強い立場になっています。英国は日本ととても近い立場で話をしますので、英国のEU離脱の影響は大きいと思います。光ファイバーケーブルのアジアへのトラフィックのほとんどは日本経由です。日本を経由して東シナ海、南シナ海周辺を通るので、太平洋側はこの辺の海が一番クリティカルな回線になっています。一方、大西洋側の光ファイバーケーブルはほとんど英国に上陸していて、EUの米国への入り口は英国でした。しかし、最近の新設ケーブルはフランスのマルセイユに上がるようになってきています。このように、EUからの英国離脱は、様々なところに影響があることがわかります。(2)北極海の氷が溶ける北極海の氷が溶けたことも、光ファイバーケーブルの敷設に影響を及ぼしています。カナダからアラスカを回る光ファイバーケーブルは、北極海を通って敷設したものです。以前なら、ロシアのEEZ(排他的経済水域)を通らずにケーブルを敷設することができなかったのですが、北極海の氷が溶けたことで、ヨーロッパから北極海を通ってアリューシャン列島を通り、北欧から日本海に光ファイバーケーブルを繋ぐことができます。フィンランドのCinia社とロシアのMegaFon社が共同してヨーロッパとアジアと北米をダイレクトにつなぐ北極横断海底ケーブルの敷設を目指すArctic Connectという計画ができたので、2020年3月に北欧のR&E(研究・教育)のチームが私のところに来て、日本の研究者と欧州の研究者をつなごうという提案をしてきました。現在、日本からヨーロッパへのインターネット回線の経路は、新潟の直江津からナホトカを通って、ロシアの光ファイバーケーブルを使ってヨーロッパへ行くのが最短距離ですが、日本~津軽海峡~ウラジオストック~北欧というルートができると、こちらが最短距離になります。この海底ケーブルはロシアと北欧の資金で敷設し、日本は多少予算がとれればできるということで、急ピッチで陸揚げなどの準備をしていましたが、今年6月にMegaFon社が「Arctic Connectの計画を止めた」と言ってきました。これは、ロシア政府が介入して、ロシアの内陸の光ファイバーケーブルを引くことに全部予算を振り向けたということではないかと思いますし、ヨーロッパと日本が直接繋がることが気になったのかもしれません。光ファイバーには地政学的な考え方があまりなく比較的自由でしたが、非常に長い区間ロシアのEEZを通ることが徐々に問題になったのかもしれません。(3)リスクから逃れる世界の幹線インターネットのトラフィックは、日本を経由して東南アジアに行き、東シナ海、南シナ海に海底ケーブルが多くあります。私たちも研究ネットワークの太い光ファイバーケーブルを持っていますが、頻繁に光ファイバーケーブルが切断されてダウンしてしまうため、どうしてなのかを調べました。いろいろ調べて分かったことは、漁船がアンカー(錨)を引き上げるときに海底ケーブルが切断されてしまうことが原因だということです。以前、南シナ海に中国の漁船200隻が集結していた、というニュースがありました。中国の漁船は、AndroidのようなOSが乗っているデバイスを持っているという情報があります。それから、中国は「北斗」という測位衛星、そして、「天通」という衛星通信があります。200隻の漁船をどうしたら並べることができるのか、実は軍の船じゃないか、という推測もありましたが、この3つの道具があれば200隻きっちり並べることができます。漁船は指示された場所に行ってアンカーを下ろして、アンカーを引き上げるときに海底ケーブルが切断されてしまいます。彼らは軍とは関係のない漁民ですが、きちんと漁船を動かせます。通信技術がこういうことにもインパクトを与えているのです。 ファイナンス 2021 Dec.67夏季職員トップセミナー 連載セミナー

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