ファイナンス 2021年12月号 No.673
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合意するよう奔走しました。それまでは、各会社がバラバラにビデオをエンコーディング、デコーディングする仕組みをつくってブラウザに乗せていましたが、これらの仕組みを標準化したサービスプラットフォームの側に入れたのです。そうすると、ここは競争領域ではなくなり、協調領域になりました。ドラフトが2008年にできて、8年間かけて2016年に最終的に標準化されました。時間は少しかかりましたが、結果はご覧いただいているとおりです。本日、ここでビデオ会議が行われています。COVID-19が始まり、みんながビデオ会議や遠隔授業を始めました。なんとか間に合ってよかった、と感じます。標準化された後、Zoomをはじめとして様々な企業が次々に出てきて、新しい産業が丸ごとできてしまいました。これらの会社はインターネットのインフラをつくっていませんので、すべて「ただ乗り」ですが、時価総額が高い。こういうことが、デジタル社会をつくるということなのです。W3CはNATAS(The National Academy of Television Arts and Sciences・米国テレビジョン芸術・科学アカデミー)から第70回技術・工学エミー賞(Technology & Engineering Emmy Award)を受賞しました。エミー賞は、世界のテレビ技術の発展に貢献した個人や組織に与えられる賞で、テレビの代わりの「ただ乗り」プラットフォームをつくったら新産業ができた、HTML5の標準化はテレビや映画の賞に値する、ということで私がW3Cを代表して受賞しました。3.海底ケーブルは「動脈」次にインターネットのインフラに関わることをお話しします。これは「子供の科学」という雑誌に、インターネットについてわかりやすく説明した文章を書いた際に用いたインターネットのイラストです。「子供の科学」は私の愛読書でしたので、喜んで依頼を引き受けてこのイラスト書いてもらいました。当時、インターネットはまだできていないのですが、やがてインターネットは世界の動脈になり、血液が栄養を体に配っていくようにインターネットが地球全体にいろいろなものを配って、一つ一つの細胞が元気になる。そんな仕組みがインターネットで「インターネットは世界の動脈になります」ということを「子供の科学」でどうやって説明しようかと考え、このイラストを使って説明しました。動脈は、血液を送り出す、体の中で血液を隅々まで行き渡らせる役割を果たしていますが、そのためには心臓が必要です。当時、私が「日本が心臓の役割を果たす」と言っても、大抵の人は米国と欧州が心臓の役割を果たすと思っていました。だからこそ、子供達に「日本もこの心臓の役割を果たさなきゃいけないのだよ」と話すのです。現在、EUや米国、GDPR(EUにおける一般データ保護規則)などが主導権を争っていますが、ある意味、これとは全く違う日本の役割があるだろうと思います。デジタル庁の使命は、この国を良くするということもありますが、もう一つの使命は、地球全体の中で日本が世界のどういう位置で活躍できるようにしていくのか、ということだと思います。4.地表空間は大変革!ほとんどのインターネットのデジタルデータは地表の光ファイバーケーブルを通って世界に流通しています。この地表空間の光ファイバーケーブルに大変革が起こっています。(1)英国がEUから離脱(ブレグジット)光ファイバーケーブル敷設に影響を及ぼしている要66 ファイナンス 2021 Dec.連載セミナー

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