ファイナンス 2021年12月号 No.673
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(2)デジタルプラットフォームづくりそもそも、世界中でビジネスをしようとしたら、これまでは、そのためのインフラを各自がつくっていく必要がありましたが、今のデジタル環境の中では共通のインフラがあります。そういう意味で、この3つの仕組みができてしまえば、ソフトウェアだけで新しいサービスを世界中に展開できます。この3つの仕組みのさらに上の部分は「オーバー・ザ・トップ」と言われます。この部分ではインターネットを作らなくていいし、コミュニケーションの仕組みも作らなくていいし、暗号化の安全な通信に対して気を遣うこともありません。したがって、アイディアがあったらそのままサービスを作ればいい。それに専念すればいい。これがインターネット環境の貢献です。インターネットインフラをつくる企業や電話会社は、よく「オーバー・ザ・トップ」と憎々しく言います。なぜかと言うと、インフラをつくるには多額の投資が必要ですが、「オーバー・ザ・トップ」のGoogleやAmazonなどはインターネット上で大きなビジネスをして、時価総額の上位にいるがインフラには貢献していないという論点です。これらの会社は、今でこそサービスプラットフォームを一部つくったり、ケーブルを敷設していますが、ずっとインターネットの上「オーバー・ザ・トップ」で大金を稼いでいました。私は大学の授業で「オーバー・ザ・トップ」という英語を「ただ乗り」と訳していました。インターネットは「ただ乗り」をつくるためにあります。デジタル庁の使命は、日本の社会全体に「ただ乗り」をつくっていくこと、みんなが「ただ乗り」して本来の活動をすることだと思います。たとえば、地方の中小企業、あるいは金融業、第一次産業でも、あらゆる業界がデジタルプラットフォームの上で、自分たちが本当にやりたいことを連携してやるなり、新しい問題を解決するなり、夢を実現するなり、みんなが「ただ乗り」できる社会をつくる。このデジタルプラットフォームをつくること、これがデジタル庁の一番の使命ではないかと思います。そういう意味では「オーバー・ザ・トップ」を含めたインターネットの構造をまず理解して、アイディアさえあれば、お金をかけずに、力がなくても新しいものを発明することができます。そうすれば、イノベーションが生まれて、そこで問題を解決して、たくさんの人に良いサービスを提供することができます。これがデジタルプラットフォーム、デジタル社会の環境整備であると思います。(3)地球にひとつグローバル空間インターネットの大きな特徴として、そもそもインターネットは、特に大学が開発を進めていましたので、国境の概念がないということです。文明というものは道具が生まれ、そこから社会をつくっていきます。デジタル社会というのは、いわば数学的なコンピューター、数学的な原理から始まりました。つまり、「インターネット文明」をつくったと言えると思います。「インターネット文明」が過去の文明と何が違うかと言うと、過去の文明は世界各地バラバラにありましたが、「インターネット文明」は地球に一つしかありません。本当のグローバル空間を人類は手にしたのです。現在、グローバル空間と、国際空間、つまり政府がきちんとコントロールして国民を守っている仕組み、この共存が完全にできる時代になりました。だから、2021年は、歴史的に見ると「now or never」という時代です。インターネットが全地球、全人類のために、あるいは、地球全体を覆うようになってほしい、と私たちはずっと願ってきました。2021年は、その元年だと思います。パンデミックの中でもみなさんがそれぞれの仕事をできている、これは大変重要な、歴史的なことだと思います。2. グローバル標準化とプラットフォーム「It’s now or never!」は、デジタル庁だけではなく、デジタル社会だけでもなく、みなさん一人一人の生活や人生、仕事にも、起こることだと思います。身近な例を挙げると、World Wide Webの上で私たちは、ビデオストリーム、つまりビデオが流れる仕組みを標準化しました。私はW3C(World Wide Web Consortium)の一員として、日本の企業が標準化に ファイナンス 2021 Dec.65夏季職員トップセミナー 連載セミナー

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