ファイナンス 2021年12月号 No.673
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4. シェアリングの水平的拡大: 義務を負う業種次に、そのような義務が、銀行を起点としつつも、それだけには留まらず多くの業態に拡大されていった、水平的拡大の観点から犯収法を眺めてみよう。具体的には、義務が課される対象業種は犯収法上「特定事業者」として列挙されているが、これは2003年の第3次FATF勧告により拡大がなされ、これが我が国においても反映されたものである。この点、伝統的には特定事業者を金融機関と非金融機関に分けることが一般的であり、前者はFI(Financial Institutions)、後者はDNFBP(Designated Non-Financial Business and Professions)なとど呼ばれる。これは、マネロン対策がまずは金融機関から始まった経緯や、現在においても金融機関が特定業者の大半を占めることと軌を一にするものだ。他方で、現行制度の把握という意味では、むしろ、それらがマネロン等に果たす役割に着目し、まずはそれぞれを、(A)実際にマネロンに絡むカネの通り道となる「チャンネル」機能、(B)マネロン行為・それに繋がる特殊詐欺等に悪用され得る「メッセンジャー」機能、(C)法的手続等のサービス提供を通じ、マネロンに手を貸してしまう可能性のある「エキスパート」機能、に関わる業種として捉えることが、理解に資する。(A)の類型が、特定事業者の中で最も大きな割合を占める。ここには、金融機関の他、不動産業者、貴金属商・宝石商等が含まれる。何れの業者も、マネロンに絡むカネが通過していく可能性のある業態である。具体的には、第一章でも説明した通り、例えば汚れたカネをこれらの資産に一度転換し、再度換金することによって、元々のカネの出所を隠匿することが可能になる。(B)の類型は、郵便物受取サービス業者、電話受付代行業者、電話転送サービス事業者からなる。これらは、犯罪者が実際の居所等を公開することなく、郵便物や電話の接受が可能となるものである。特に郵便物受取サービス業者は、日本においては振込詐欺事犯での現金の送付先として利用されたり、海外においてはペーパー・カンパニーの設立に用いられた事例がある。(C)は弁護士、公認会計士等のいわゆる「士(サムライ)業」である。これらの業種も、地下資金対策の観点は重要な位置付けにあるが、顧客との特別な信頼関係に鑑み、ウタトリの提出義務が課されていないことをはじめとした、特殊な扱いを受けている。さてこのように、それぞれの業種がいかなる機能の故を以って、犯収法上の義務が課されているのかを理解した上で、従来的な金融機関・非金融機関の分類に立ち戻ってみよう。すると、ここでは以下の二つのことが言える。まず第一に、法的に見て、犯収法上の規則が全て掛かって来るのは金融機関であり、非金融機図表4:犯収法上の特定事業者金融業()・銀行・信用・労働金庫・労働金庫・各種協同組合・政策系金融機関・保険会社・外国保険会社等・証券業等・信託会社・貸金業・資金移動業・暗号資産交換業・金融・商品先物取引・外貨両替等非金融業()・ファイナンスリース・クレジットカード・宅地建物・宝石・貴金属等・郵便物受取サービス・電話受付代行・電話転送サービス・司法書士・行政書士・公認会計士・税理士・弁護士チャンネル機能メッセンジャー機能エキスパート機能(筆者作成)なお、業種は法令上の呼称等とは一致しない場合がある。 ファイナンス 2021 Dec.51還流する地下資金 ―犯罪・テロ・核開発マネーとの闘い―連載還流する 地下資金

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