ファイナンス 2021年12月号 No.673
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認の内容も様々あるが、大きくは(1)目の前にいる人間が確かに本人であること、(2)取引目的がマネロン等ではないこと、の2つが柱である。要すれば、「自分のお客さんについては、それが本人であることや取引が怪しい目的でないことをきちんと確認し、その記録を残して保存しなさい。一度確認したら良いというものではなく、継続的に確認するように、そして、それができるような体制整備にも努めなさい」ということだ。これは、CDD(Customer Due Diligence)、KYC(Know Your Customer)といった言葉で表現されることもある。もっとも、ありとあらゆる取引にそれが要求される訳ではなく、マネロン等のおそれが高いものとして、性質や金額によって類型化されたものに限定されてはいるが、それでも、これらの負担は相当に重いものである。加えて、この第二段階にはテロ資金・拡散金融に絡む制裁、即ち、資産凍結の実施が含まれる。あなたの資産が凍結された、という言葉の意味を具体的に言えば、例えばあなたの銀行口座について、既存の預金が引き出せなくなり、また、新たな送金が受けられなくなるということである。当該口座を管理している銀行は、外為法及び国際テロリスト財産凍結法に基づき、それらの取引を実質的に拒否するという形で、資産凍結という措置の担い手となる訳だ。このように、特にこの水際のステージは民間事業者の負担が大きい部分になるが、他方で官の側は、事業者がそのような措置を円滑に実施できるよう、法令等に係る「インフラ」の整備を行い、また、適切に監督を行う義務を負っていると解される。最後の第三段階は、地下資金対策上、問題となり得る取引が行われてしまった後の、事後対応のフェーズである。民側のウタトリの提出義務については、既に前節で説明した。それを受けた官は、その情報を適切に活用し、必要とあらば適切に捜査・訴追を行わなければならない。また、当局間の協力によって、国際的に犯罪者を追い詰めるための枠組み作りとその執行も、この中に含まれる。更に、提出されたウタトリがどのように活用され、実際の摘発に活用されたのかといったフィードバックを適時に行うことも、爾後の届出の確度向上の観点から、官に要請される責務である。このように、官民のバーデン・シェアリングは、現在では時間軸に沿ってかなり伸長した体系となっている。今後も、国際的な対策の発展・高度化の要請に従い、更にこの傾向が拡大していく可能性はあるだろう。図表3:地下資金対策の各段階(再掲)③捜査の端緒の獲得~処罰(事後対応)【官】提出された情報の活用、捜査・訴追、国際協力【民】疑わしい取引報告の提出②顧客管理等・金融制裁の実施(水際措置)【官】事業者の措置実施のための法令・インフラ整備、監督【民】本人確認・顧客管理・取引謝絶、金融制裁の実施①リスクの特定・評価(資源配分)【官】国としてのリスク分析・共有【民】業態・個社ごとのリスク分析(筆者作成)50 ファイナンス 2021 Dec.連載還流する 地下資金

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