ファイナンス 2021年12月号 No.673
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第二に、地下資金対策の中でも、指定されたテロリスト等に対する資産凍結といった金融制裁に関するものが、(4)・(5)である。これらも地下資金対策の礎石であることには変わりないが、金融制裁という、いわば増築部分の土台である。これらの法律についても、本来理屈の上では一つに収まっていても良かったものが、歴史的経緯によって二法に分かれて規定されている。つまり、クロスボーダーの取引に係る金融制裁が、まず既存の法律である外為法に押し込まれ、その後、FATFからの指摘も受け国内取引についてカバーする必要が生じるに至り、これはどう見ても外為法の枠組みを越えてしまうものであるため、新法を制定するより他なかった、という経緯である。そして第三に、(6)犯罪収益移転防止法(犯収法と略され、マネロン法と呼称されることもある)は、主に予防措置等に係る民間事業者の義務を規定するものであり、事業者の立場からは最もなじみが深い。この原型は、金融機関に対する義務を定めた本人確認法*4であるが、対象事業者等が拡大されるに伴い、2008年以降、犯収法へと発展的に形を変え、今に*4) 正式名称は「金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律」。後に「金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律」と改称。*5) なお、正確には犯収法の他、業界ごとの関連業法やガイドライン等、また、金融制裁の部分については外為法及び国際テロリスト財産凍結法も直接・間接に事業者の義務を規律している。至っている。また、図表1からも分かる通り、FATF基準との関係でも多くの勧告に関わるものである。その意味では、第一・第二で説明した法令の礎石に立った、地下資金対策の屋台骨を成す法律とも言え、本章のテーマである官民間シェアリングの主要部分を規定するものである*5。なお、このように法令自体が複雑な構成になってしまっていることは、経緯上やむを得ない部分があるとは言え、一覧性の確保という観点からはやはり望ましいものではない。また、どの法律にも元来の制度がある中で、新たな要素を詰め込んで行くと、当該法律の趣旨目的に照らしいずれは無理が出て来ることもある。今後、関連する法令において法理的・実務的に支障を来たすような事態が生ずれば、どこかの段階である程度の収斂化や再構成を図っていく必要はあろう。2.「ウタトリ」という非凡な義務さて、FATF基準に準拠し、我が国においては犯収法で定められた民間事業者の主要な義務の一つとし図表1:地下資金対策に係る日本の法体系とFATF勧告との対応勧告の概要対応する主な法律AML/CFTに関する政策・協力(勧告1、2)犯収法資金洗浄の犯罪化と没収(勧告3、4)麻薬特例法組織的犯罪処罰法テロ資金供与・拡散金融対策(勧告5~8)テロ資金提供処罰法外為法国際テロリスト財産凍結法NPO関連法金融機関等の予防措置(勧告9~23)犯収法法人等の透明性(勧告24、25)犯収法商業登記法公証人法当局の権限等(勧告26~35)犯収法関連業法関税法国際協力(勧告36~40)国際捜査共助法逃亡犯罪人引渡法1①刑法の特則マネロン・テロ資金②金融制裁テロ資金・拡散金融③事業者の措置(主に犯収法)(財務省資料をベースに、筆者作成) ファイナンス 2021 Dec.47還流する地下資金 ―犯罪・テロ・核開発マネーとの闘い―連載還流する 地下資金

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