ファイナンス 2021年12月号 No.673
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コラム 海外経済の潮流137大臣官房総合政策課 渉外政策調整係 時永 和明最近の中国における様々な規制策1.はじめに「ゲームは週に3時間まで。」これは中国政府が公表した政策である。そこまで国が規制する必要があるものかと筆者は驚いた。政府当局によれば、未成年者のオンラインゲームへの没頭を防ぎ、心身の健康を守るための措置であるとしており、オンラインゲーム各社は対応を講じている。このところ中国では、政府による企業や産業に対する締め付けや規制の強化が矢継ぎ早に打ち出されている。規制の対象範囲はIT、教育、芸能、不動産など多岐に渡る。2021年8月、習近平総書記は、共産党の経済政策を担う中央財経委員会において「質の高い発展の中で共同富裕を促進しなければならない」と強調した。共同富裕は、国民全体が物質的・精神的に富裕になることを指し、低所得者層の底上げや高所得者層からの富の移転を促進する。昨今の様々な規制の強化は、このような社会格差の是正が目的の一つであるとみられる。また、企業への規制強化の目的として、巨大化した企業への政治的影響力の強化や、膨大な個人情報を保有する企業に対する国家安全上の懸念なども指摘されている。習近平国家主席のもとで中国政府は、様々な規制の導入によって、共同富裕を目指し、社会格差の是正や国家の安全などを目指した大きな構造改革を進めている。2.様々な分野における規制策ここでは、コロナ禍以降で中国政府が導入した主な規制策を挙げる。(1)IT企業関連中国では2010年代半ばから、「ネット強国」への転換を目指し、情報化社会の発展に取り組んできた。しかし最近は、強大化したIT企業の影響力などを懸念し、政府は締め付けを強化している。・アリババ集団2020年11月、電子商取引(EC)最大手のアリババ集団の傘下で、十億人を超える利用者を持つスマホ決済アプリ「アリペイ(Alipay)」を手掛けるフィンテック企業のアント・グループは、上海と香港での新規株式公開(IPO)を計画していたが、中国当局の方針変更により上場延期を余儀なくされた。アリババ創業者のジャック・マー(馬雲)氏は2020年10月に上海で行われた講演で、中国当局に対する批判ともとれる発言をし、これを受けて金融当局は締め付けを強めたとの見方がある。金融当局は、コーポレート・ガバナンスの仕組みが不健全、法令遵守の意識が希薄、消費者の合法的な利益を侵害しているなどと指摘した。また、2020年12月に政府当局はアリババ集団に対して、市場支配的な立場を乱用しているとして調査を実施し、2021年4月には独占禁止法に違反したとして制裁金を科した。同社は2015年以降、自社の通販サイトに出店する企業が競合するプラットフォームに出店することを禁止する「二者択一」を強要したとし、2019年国内売上高の4%に相当する約182億元【図表1】アリババ株価推移当局が「二者択一」の疑いでアリババに対し調査を開始したと発表当局が「プラットフォーム経済分野における独占禁止ガイドライン」の草案を公表100350300250200150123456789101112123456789101120202021(HKD)(出所)Datastream42 ファイナンス 2021 Dec.連載海外経済の 潮流

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