ファイナンス 2021年12月号 No.673
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失業保険財政の位置づけ制度の沿革を反映する形で、基本的には労使自治による制度であるとの考え方の下、財政的にも一定の独立性が担保されてきた。したがって、現段階では毎年度の社会保障財政法には含められていない*28。失業保険改革の財政政策としての側面2019年に政府がとりまとめた失業保険改革のパッケージについては、労働市場改革としての側面と同時に失業保険の財政状況の改善も意図されたものだった。失業保険の財政主体である失業保険管理機構(Unédic)に収支改善がもたらされ、改革着手の2年後(2021年)には黒字化が達成されると見込まれていた(図3の点線や図4の薄い棒グラフ参照)。その後コロナ危機の影響を受ける形で、2019年の改革案策定時のシナリオからは一定程度乖離しているが、それでも2022年には黒字化するシナリオとなっている。失業保険の財源フランスにおける失業保険の財源として、まずは雇用主負担の保険料がある。雇用主がグロスの総賃金の4.05%を原則として保険料として拠出することとされている。一方、被用者側については、2019年1月1日から原則として保険料は廃止され、その代替財源としてCSG(一般社会税)が充当されることとなった*29。これらの財源はいったん失業保険管理機構(Unédic)の下に集められ、それが各ポールオンプロワ(フランス版ハローワーク)を通じて求職者等に手当として支給されることとなる。*30失業保険財政の収支状況コロナ危機直前の「平時」と考えられる2019年の収入は392億ユーロ、支出は411億ユーロとなっている。支出の内訳は、失業手当350億ユーロ、求職者の補足年金保険料22億ユーロ、ポールオンプロワ事務費35億ユーロ等となっている。直近の収支予測によれば、2020年の収支はコロナ危機を受けて174億ユーロの赤字となっている。失業保険の収支赤字は、失業保険管理機構が明示的な政府保証の下で発行する債券によって賄われる仕組みとなっている。失業保険制度の累積債務累積債務は、2019年末時点の368億ユーロに対して2020年末には546億ユーロ、2021年末には647億ユーロへと増え、その後2023年にいたるまで600億ユーロ程度で高止まりとなる見込みとなっている。これら失業保険財政の状況をグラフ化したものが以下の図3~5である。(図3)失業保険の収入と支出の推移予測2060555045403530252005200620072008200920102011201220132014201520162017201820192020202120222023(10億ユーロ)(出典)失業保険管理機構(Unédic)支出(2020年2月予測)支出(2021年10月予測)収入(2020年2月予測)収入(2021年10月予測)【コラム】フランスの失業保険の財政状況*28) この点について、「失業保険の財源」にあるように、すでにCSGという「公費」が投入されるようになっている以上、失業保険財政も社会保障法の範囲に含め、議会審議の対象とすべきとの動きが上院などで見られる。本年後半に議会審議に付されている社会保障財政法組織法改正法案に対して、上院が2023年以降は社会保障財政法の範囲に失業保険財政を含める旨の修正を加えている(本稿執筆時点では、同修正は両院協議会で「吊るされている」状態)。(https://www.assemblee-nationale.fr/dyn/15/dossiers/alt/pplo_lfss#15-CMP)*29) 失業保険管理機構(Unédic)によれば、失業保険の財源の37.5%がCSGとされている。https://www.unedic.org/a-propos/qui-fait-quoi-dans-lassurance-chomage*30) https://www.unedic.org/a-propos/qui-fait-quoi-dans-lassurance-chomage32 ファイナンス 2021 Dec.SPOT

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