ファイナンス 2021年12月号 No.673
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ス・マリュス制度を2022年まで先延ばしするよう、それぞれ要求した。しかしながら、労働省関係者は新聞の取材に対して、「制度哲学までさかのぼることはなく、パラメータをいじる程度だ」と答え、政府サイドの譲歩に関する過度な期待を招かないように予防線を張っている*18。一方で、大手紙の論説などでは、以下のような、いくぶんうがった見方も見られるようになっていた。「カステックス首相は、本来は改革者の高い志を持っているはずだが、ここ数週間、経済の回復や企業活動の潜在的回復を妨げることを全力で回避しようとしている。(中略)短期雇用への逃避を制限するための失業保険のボーニュス・マリュス(マクロンの選挙公約だ)。予定されていた2021年施行の代わりに、首相府は、既に傷んでいるホテル・レストラン業界をこれ以上苦しめないために、一年施行を遅らせる(そののち改革自体を廃止する?)用意がありそうだ。」それでも政府は「調整するのはいくつかのパラメータに限る」という考え方を維持する。2020年10月に入っても、例えばボルヌ労働大臣は、以下のように述べている*19。「失業保険改革は、最良の質の雇用を提案するよう企業にインセンティブ付けするとともに、就労が必ず失業よりも報いられるよう求職者にインセンティブ付けをするためのものだ。この思想は適切であり続けている。一方で現実的でもあるべきだ。改革に含まれるいくつかのパラメータについては、経済危機の影響が及ぼす負の影響を限定するように調整する必要があるかもしれない。ボーニュス・マリュス制度や失業手当支給額計算方法の厳格化などの改革の原則を撤回するつもりはない。労使代表とこれらの改革のパラメータについて議論し、一定の調整をすることにはオープンだが、仮に労使の議論が収斂しないようであれば、我々は政府の立場として責任ある行動にでなければならない。」*18) https://www.lefigaro.fr/conjoncture/sur-le-front-de-l-emploi-le-gouvernement-adapte-en-temps-reel-sa-politique-anticrise-20200930*19) https://www.legaro.fr/social/elisabeth-borne-c-est-le-role-de-l-etat-de-proteger-l-emploi-et-les-entreprises-20201009*20) https://data.over-blog-kiwi.com/3/22/80/20/20201015/ob_db1700_courrier-au-premier-ministre-des-5-org.pdf*21) https://www.lemonde.fr/politique/article/2020/10/14/face-a-la-crise-les-syndicats-dictent-leurs-exigences-dans-une-lettre-au-gouvernement_6055993_823448.html*22) https://www.lefigaro.fr/selon-castex-le-gouvernement-n-entend-pas-renoncer-a-la-reforme-majeure-de-l-assurance-chomage-20201026*23) https://www.vie-publique.fr/questions-reponses/271537-7-questions-sur-la-reforme-de-lassurance-chomage改革の中身について、引き続き「パラメータ調整」には一定の柔軟性を示唆しつつも、改革の核心部分は維持する姿勢を示すものである。また、進め方に関しては、たとえ労使代表との調整が決裂しても最後は政府の責任で改革の針路を決めるぞ、と迫っている。(写真3)エリザベット・ボルヌ新労働大臣(Ministères sociaux / DICOM / Nicolo Revelli-Beaumont / Sipa Press)(2)施行の第三回延期この時期(2020年10月14日)、対する五つの主要労働組合側は、カステックス首相宛ての共同書簡*20を策定し、正式に失業保険改革のシンプルな「放棄」を要求している*21。第二回ロックダウンが不可避となってきた10月26日、カステックス首相が労使代表を集めた全体会議を開き、失業保険の制度改正の施行時期をさらに延期する意思を伝達した*22。2020年7月時点で2021年初頭まで延期されていた各種項目の施行時期を2021年4月1日にまで延期する内容だった*23。しかしここでも、首相が、「延期は放棄を意味しない」と発言し、あくまで改革の完遂に意欲を見せている。30 ファイナンス 2021 Dec.SPOT

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