ファイナンス 2021年12月号 No.673
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から、ボーニュス・マリュス制度(イ)については経営側から、それぞれ反発が示された*3*4*5。それでも、これらの改正項目は2019年年7月26日に政令(デクレ)として定められた(Décret n° 2019-796*6,2019-797*7)。この政令に基づき、表1にもあるとおり、一部の重要な改正項目はパッケージ第一段階として、2019年11月1日に施行が実施された。2019年11月と言えば、2017年5月からはじまったマクロン大統領の任期5年間のちょうど折り返し地点に当たる。失業保険改革は、マクロン大統領の労働関連施策に関する選挙公約*8の中で残されていたものであり、その政治的決着と第一段階の施行は、マクロン大統領がその任期の前半のうちに、長年の懸案とされてきた種々の労働市場関連の改革を着実・迅速に積み重ねていることの象徴だったともいえよう。紆余曲折を経て多段階施行の各施行日を待つのみとなったかに見えた2019年末を越え、しかしながら、コロナ危機が待ち受けることとなる2020年を迎えるのである。2コロナ危機の発生以上、「失業保険改革編・上」からに引き続き「コロナ前史」という前置きが長くなったが、いよいよ本題のコロナ危機発生後の改革の動向である。(1)危機発生直後の経済状況順調に改革を進めているかに見えたフランスをコロナ危機が襲う。2020年3月から5月にかけての第一回ロックダウンは、他国の措置やその後のフランスの第二回・第三回のロックダウンと比較しても極めて厳格なものであり、フランス経済の体力を大きく奪った。GDPは2020年第2四半期について、前期比-13.8%となるなど、大幅な落ち込みとなった。雇用情勢については、失業率こそ2020年第1四半期(7.8%)、第2四半期(7.1%)と、それ以前の8%台に比べて低下したものの、これはロックダウンによ*3) https://www.medef.com/fr/communique-de-presse/article/fin-de-la-negociation-relative-a-lassurance-chomage-seance-du-20-fevrier-2019*4) https://www.cgt.fr/comm-de-presse/assurance-chomage-mobilisation-le-26-juin-paris-et-en-territoire*5) https://www.cfdt.fr/upload/docs/application/pdf/2019-02/com_12_-_assurance_chomage.pdf*6) https://www.legifrance.gouv.fr/jorf/id/JORFTEXT000038829474/*7) https://www.legifrance.gouv.fr/jorf/id/JORFTEXT000038829574*8) https://storage.googleapis.com/en-marche-fr/COMMUNICATION/Programme-Emmanuel-Macron.pdf*9) https://www.insee.fr/fr/statistiques/4641598*10) https://www.insee.fr/fr/statistiques/4653055*11) https://www.legifrance.gouv.fr/jorf/id/JORFTEXT000041763397/り求職活動そのものが困難となったことを背景とする「統計上の錯覚」と指摘された*9。雇用実数でみれば第2四半期における国内の雇用総数は前年同期比で57万2900人の減少(率にして-2.3%)を記録し、特に臨時雇い(intérim)が前年同期比で-27.1%となっている*10。部分的失業制度の迅速かつ大規模な実施などの効果もあり、雇用の大幅な落ち込みは避けられたものの、その後に向けて雇用の量・質に関する警戒感が広がっていた時期と言えよう。そのような状況の中、様々な厳格化措置を含む失業保険改革のパッケージについても、これをどのように取り扱うのか、維持するのか、棚上げにするのか、中間的な途を模索するのか、という点はフランス政府にとって一大テーマとなった。(2) 失業保険改革に関する初動対応(第一回施行延期)危機発生直後、ロックダウン中の3月末に、フランス政府は2020年4月1日から予定されていた公的給付や公共料金の変更を、緊急避難的に凍結することを決定する。その凍結対象には、失業保険改革のパッケージに含まれていた厳格化措置も含まれていた。すなわち失業手当支給額計算方法の厳格化(ニ)の施行を4月から2020年9月へと延期した。あわせて、高所得者への手当支給額の逓減制(ホ)について2020年5月末まで凍結することとした(逓減制については、制度としては施行されていたものの、支給期間が6か月経過したのちに逓減が作動する、という制度だったために、個別受給者ベースでは「逓減」は未だ発生していない状況だった)*11。(3) 労働関連施策に関する総合的アジェンダセッティングの中での第二回施行延期次なる一手として、第一回のロックダウンが5月半ばに解除されてからほどない2020年6月4日に、マ ファイナンス 2021 Dec.27コロナ危機下におけるフランスの制度改革の行方SPOT

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