ファイナンス 2021年12月号 No.673
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「失業保険改革編・上」においては、失業保険の受給資格を拡大することで制度をより普遍的なものとすることを目指した左派的なマクロン大統領候補の選挙公約項目が端緒となりつつも、2年ほどの政権運営の中で、失業保険改革の全体像に右派的・親ビジネス的な要素が入り込んでくる過程を追った。その過程で、歴史的には労使自治に基礎を置く失業保険制度への政府の関与が一層強まり、2019年夏に向けて、政府自身の手によって失業保険改革の総合的なパッケージが取りまとめられる段階にさしかかる。1政府による改革パッケージ公表(1)改革パッケージの内容2019年6月18日にフィリップ首相とペニコー労働大臣は記者会見に臨み、失業保険改革パッケージを公表した*1。このパッケージは以下表1のとおりである*2。以降、新聞報道などにおいても、失業保険改革のパッケージは「四つの柱」から成るものとされた。労使双方にとって負荷がかかる総合的なパッケージが示されたことになる。<第一の柱>ボーニュス・マリュス制度(イ)マクロン大統領の選挙公約にあった項目であり、失業保険の保険料企業負担分に雇用契約の長短等に応じて傾斜を付ける改革。経営団体サイドに負荷がかかる改正項目。<第二の柱>失業手当受給要件の厳格化(ロ、ハ)新規受給要件の厳格化と受給資格の再充填の厳格化の二つから成る改革。労働組合サイドに負荷がかかる改正項目。*1) https://www.gouvernement.fr/sites/default/files/document/document/2019/06/discours_de_m._edouard_philippe_premier_ministre_-_presentation_de_la_reforme_de_lassurance_chomage_-_18.06.2019.pdf*2) 2019年11月1日から施行された内容についてはhttps://www.unedic.org/espace-presse/actualites/assurance-chomage-refait-le-point-quelles-evolutions-au-1er-novembre<第三の柱>失業手当支給額計算方法の厳格化(ニ)従来、短期の就労と失業手当受給を交互に繰り返す慣行の最大要因ととらえられてきた参照日額賃金(SJR)の算出方法を見直す改革。日当たり受給額×受給権利期間の総額は改正前後で不変であるものの、やはり労働組合サイドに負荷がかかる改正項目。<第四の柱>高所得者の手当逓減制の導入(ホ)高所得者にかかる受給抑制策であり、対象者も限定的な改革。この改革によって、2019年から2021年の3年間にかけて、15万人~25万人程度の失業者の減少が見込まれるとされた。(写真1)記者会見に臨み、政府による失業保険改革パッケージを公表するフィリップ首相(右)とペニコー労働大臣(左)(いずれも当時)(Service photos / Matignon)(2)改革パッケージの財政影響改革が失業保険手当支給という歳出にもたらす財政効果について、2019年9月時点で、失業保険管理機構(Unédic)は以下表2のように見積もった。なお、在フランス日本国大使館参事官 大来 志郎コロナ危機下におけるフランスの制度改革の行方~失業保険改革編・中~ ファイナンス 2021 Dec.25SPOT

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