ファイナンス 2021年12月号 No.673
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*40*41*42*40) 例えば、6か月円LIBORについては0.05809%がスプレッド調整値になります。*41) LIBORとOISのスプレッドは過去5年間をみるとトレンドを持った動きをしています。平均回帰した系列であれば5年のスプレッドの中央値は実態に合ったスプレッドになりえますが、トレンドを持った系列であると、その系列からスプレッドをとった値は実態と大きく乖離することが起こりえます。*42) LIBORに紐づいた社債については我が国については劣後債などが存在します。劣後債の場合、最初の数年は固定であり、数年後、社債発行体が、期限前償還条項に基づく権限(コール権といいます)を行使しなかった場合、「6か月円LIBOR+〇〇」という形で金利が定められる傾向があります。その意味で、コール権を行使すれば、LIBORの使用を避けることができます。仮にコール権を行使しなかった場合、社債権者集会を開催するなどにより後継金利を決める必要が生じます。リスク・フリー・レートの問題を議論する際、OISの場合、ヘッジツールとして活用できるメリットが実務家からしばしば指摘されます。実際、LIBOR公表の停止に伴い、TORFではなくTIBORを用いた仕組商品の組成が増えているという意見もありますが、その背景には業者のヘッジが困難である点が考えられます。その意味ではデリバティブの流動性を理解するうえで業者がどのように仕組商品を組成しているかのイメージを掴む必要があります。そこで、筆者が読者から5年の変動債の注文を受けて、この組成をするケースを考えます。ここでは簡単化のために、5年の国債が1.5%の利回りで取引されており、6か月円LIBORをインデックスとする5年金利スワップのスワップ・レートが1%で取引されていたとします。このような市場環境下で読者が100円投資する場合、筆者は読者から受け取る100円を用いて、5年国債を購入する一方、5年の固定金利(1%)を払い、6か月円LIBORを受け取ることで、読者に対して、「6か月円LIBOR+0.5%」という変動金利を支払うことが可能になります(図表8を参照)。BOX 3  仕組債や仕組預金のプライシングおよびデリバティ ブを用いたヘッジのイメージまた、国際スワップ・デリバティブズ協会(International Swaps and Derivatives Association, ISDA)が定めるフォールバック規定を取り込んだデリバティブについてはISDA準拠の契約がほとんどであり、契約者が同意した場合、既存契約を書き換える仕組み(プロトコル)が存在しています。このプロトコルに批准することにより、LIBOR移行のプロセスを円滑に進める工夫がなされています(デリバティブ取引をする金融機関のほとんどがプロトコルに批准しています)。ISDA準拠の金利デリバティブのフォールバックにおけるスプレッド調整については、過去5年におけるLIBORとOISのスプレッド・データの中央値を用いる方法が採用されています*40。もちろん、それ以外の方法もありえましたが、この方法はある種機械的に定める方法であり、不正が起こりにくい方法ともいえます。もっとも、過去5年の中央値は足元の実態に即していない側面も少なくないことから*41、投資家はフォールバックの前に取引の解消を進めています。例えば、リスク特性の近いスワップを束にして、固定金利受けポジションと払いポジションを相殺して消滅させていくことで、そもそもフォールバックの対象になるスワップ取引そのものを減らす努力をしているわけです。一方、債券やローンなどについても、日本円金利指標に関する検討委員会が移行やフォールバックに関する指針を示していますが、最終的な判断は契約をしている各主体に委ねられています。特にわが国についていえば、そもそもLIBORに紐づいた変動債が仕組債などに偏っています*42。仕組債は流動性が乏しいため、各証券会社がそれぞれの仕組債を保有している投資家の把握が容易であることから、事前に解約するか、どの指標金利でフォールバックするかを交渉して決めることができます。一方、仕組債以外にも変動債が多い国もあり、公募債である場合はどの投資家が当該債券を保有しているかを把握すること自体困難ですから、社債権者集会の開催など様々な論点が存在しています。なお、フォールバックについては、例えば、「6か月円LIBOR+50bps」という変動債であれば「TIBOR+〇〇bps」や「TORF+〇〇bps」という形で調整をします。 ファイナンス 2021 Dec.23リスク・フリー・レート(RFR)入門SPOT

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