ファイナンス 2021年12月号 No.673
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期国債先物やLIBORを原資産とした金利先物の市場など、取引所主導で市場を形成する試みが見られましたが、ほとんど流動性がない状態であり、必ずしも取引所などが企図した形で市場が形成されない事例は数々とみられてきました(このような現象は円金利市場だけでなく、他国でも見られることです*36)。さらに厄介な点は、TORFの正しさの根拠はOISの流動性*36) そもそも先進国でなければ金利先物市場や債券先物市場自体が存在しないことが少なくありません。*37) 国によって、ターム物RFR市場の流動性に差がでてくる可能性があり、異なる通貨の金利交換を行う通貨スワップの主要取引形態もそれに依存していく可能性があります。*38) JSCCは、LIBORの恒久的公表停止への対応として、2021年12月3日の業務終了時点のJPY-LIBORを変動金利の決定方法とする金利スワップ清算約定をTONA(OIS)に変換するとしています。詳細はJSCCによる「金利指標改革(LIBORの恒久的な公表停止)に向けた当社金利スワップ清算約定の取扱いについて(OISへの一括変換について)」を参照してください。なお、2021年12月6日をもって既存のLIBOR スワップはTONA(OIS)に変換され、当該日以降は新規のLIBOR スワップは清算対象外となりますが、スワップションの行使によって発生するLIBOR をインデックスとするスワップはその後年末まで清算され、1月初めに一括変換されます(スワップションについては筆者が記載した「債券(金利)オプション入門 ―スワップションについて―」を参照してください)。*39) クリアリングされていない金利スワップを「バイラテラル」や「バイラテ」などということがあります。に依存しますから、投資家がOISとTORFをインデックスとしたスワップを分散して取引した場合、OISそのものの流動性も低下させうる点です。いずれにせよ、大切な点は、市場参加者のニーズに立脚して取引が行われますから、TORFをインデックスとしたスワップの流動性がどの程度向上するかは注目すべき点です*37。*38*39前述のとおり、円LIBORは2021年末に公表が停止されますが、それ以降は、円LIBORをインデックスとした金利スワップの取引ができなくなります。これに伴い、市場参加者は2021年12月までに満了を迎え、新規でなされる契約は「移行」を促すとともに、2021年以降も残る既存契約については円LIBORを、TONAやTORFなど他の指標金利で代替します。図表7は日本円金利指標に関する検討委員会の資料を抜粋したものですが、上記のように2021年末を待たずに終了して、新契約を約定するものを「移行」とする一方、下記のように2021年を跨いで、後継金利へ変更することを「フォールバック」といいます。図表7 移行とフォールバックのイメージ移行LIBOR公表停止(2021年末)満了(円LIBOR参照契約)(円LIBOR参照契約)代替金利指標を参照する新規契約を約定契約は継続するが、参照金利を円LIBORから後継金利に変更円LIBORの恒久的な公表停止の影響なしフォールバック(出所)日本円金利指標に関する検討委員会「日本円金利指標の適切な選択と利用等に関する市中協議」に基づき筆者作成円LIBOR参照契約としては、(a)JSCCでクリアリング(清算)されているデリバティブ、(b)クリアリングがなされないデリバティブ、さらに、(c)債券やローン等を分ける必要があります。(a)クリアリングされるデリバティブ(例えば円LIBORを参照とした金利スワップ)は、そもそも2022年を待たずにJSCCがOISに変換する点が重要です*38。その場合、過去の金利に立脚し、6か月円LIBORを「TONA+〇〇bps」という形でフォールバックすることが決定されています。このことから、2021年12月末にフォールバックされる円LIBORをインデックスにした金利スワップは、(b)クリアリングがなされないものに限られます*39。もっとも、(b)については金融危機以降、清算集中の義務化が進んだこと等を背景にこの取引は相対的に少ないといえます(清算集中義務やクリアリングなどについては今後の論文で丁寧に紹介することを予定しています)。BOX 2 移行とフォールバック22 ファイナンス 2021 Dec.SPOT

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