ファイナンス 2021年12月号 No.673
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東京銀行間取引金利)をインデックスとする金利スワップおよびOISの取引量を示していますが、LIBORをインデックスとするスワップからTONAをインデックスとするスワップ(OIS)へ急速にシフトをしていることがわかります*32。前述のとおり、OTC市場では売買に立脚した公正な価格を見出しにくいことは服部(2021)で強調した点でした。その意味で、売買に立脚した公正な価格が見出しやすい先物市場の価格(取引所取引でプライシングがなされた価格)を用いてターム物の金利を決めたほうが良いとも言えます。特に金利先物は将来の金利の予約であり、その価格は将来の金利の予測と解釈することが可能であることから、取引所で定められた金利先物の価格をターム物金利として活用することも考えられます。事実、米国では、(RFRとして特定化された)担保付翌日物調達金利(Secured Overnight Financing Rate, SOFR)を原資産とした金利先物の価格に立脚してターム物金利を算出することを決めました*33(金利先物については次回の論文で取り上げます)。しかし、残念なことに、我が国において金利先物の流動性が全くありません(LIBORやTONAを原資産とする金利先物は取引がなされていませんし、若干取引がある金利先物の原資産はユーロ円TIBORです)。そのため、我が国においてOTC市場のプライスであるOISをターム物後決め金利に用い*32) 債務負担件数でみると、OISは2021年10月で約7割までシェアを伸ばしています。*33) 米国の代替参照金利委員会(Alternative Reference Rates Committee, ARRC)はCMEグループが公表するターム物レートを承認しており、同レートはSOFR先物の取引価格に立脚して算出されます。*34) 実際、ゼロ金利政策や量的緩和政策を実施した際、我が国における短期市場の流動性が欠如することは問題点として指摘されました。2010年以降、各国で低金利政策が実施されたこと等を背景に、国際的に短期市場に流動性が枯渇し、そのことは売買に立脚したLIBORの構築を困難にしました。この問題意識は、2017年になされた、英国金融行為規制機構(Financial Conduct Authority, FCA)のベイリー長官の講演でも指摘されています。*35) OTCデリバティブは相対取引であるがゆえ、金融危機時に取引の相手(カウンター・パーティ)がデフォルトすることで取引の相手側に多大な損失を与えました。このようなリスクをカウンター・パーティ・リスクといいますが、このリスクは金融危機を深刻化した大きな要因とされました。金融危機以降、カウンター・パーティ・リスクを軽減するため、清算集中義務が課され、中央清算機関を経由した清算が奨励される一方で、中央清算機関を経由しない店頭デリバティブについては証拠金規制により、より一層高い証拠金を求める規制が課されています。中央清算機関を通じたクリアリングの重要性や店頭デリバティブ規制については後日の論文で説明する予定です。クリアリングの詳細については富安(2014)などを参照してください。た背景には、金利先物に立脚したターム物金利を作ることができないこともあります。我が国の金利先物については次回の論文で詳細に説明しますが、筆者の理解では、我が国の金利先物に流動性が欠如している最大の理由は、日銀による低金利政策が2000年頃から継続しており、短期金利の変動が少ないためです。そもそも短期金利がほとんど動かず緩和的な政策が続いているのですから、円金利市場において短期市場の流動性が構造的に低下することは必然といえます*34。3.4  TORFをインデックスとする金利スワップは取引がなされるか上記以外の問題点として、TORFをインデックスとする金利スワップが現時点(稿執筆時点)でほとんどなされていない点も挙げられます。TORFをインデックスとした金利スワップは、OISなどと異なり、日本証券クリアリング機構において清算対象取引となっていない(2021年12月時点)など、市場参加者にとって現時点でハードルがあります*35。また、TORFをインデックスとしたスワップに流動性がないと、変動債の組成などで業者がヘッジすることが困難ですから、どの程度TORFに基づいた変動債が供給されるかにも不確実性があります(金融商品組成において金利スワップを用いてヘッジするイメージはBOX 3を参照してください)。LIBORからの移行のほとんどは2021年中に終わってしまいますから、それ以降、当面はTORF以外を参照した変動債が発行されていく可能性があり、それがスタンダードになってしまった後ではTORFを参照した金利スワップを取引するニーズがどれくらい生まれるかは不透明といえましょう。強調しておくべき点は、公的機関や取引所、協会などが仮にTORFを参照した金利スワップの活性化を誘導したとしても、その意図したように市場が形成されるとは限らない点です。我が国の例を挙げれば、超長図表6 金利スワップに占めるOISのシェア2021/123456789100100908070605040302010(%)(注)債務負担金額ベース(出所)JSCCLIBORTIBOROIS ファイナンス 2021 Dec.21リスク・フリー・レート(RFR)入門SPOT

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