ファイナンス 2021年12月号 No.673
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3東京ターム物リスク・フリー・レート(Tokyo Term Risk Free Rate, TORF)3.1  OISのスワップ・レートをターム物金利とみなすアイデア上述の通り、LIBORは「前決めターム物金利」という特徴を有しますから、LIBORの代替金利についても前決めターム物金利を活用したいという実務上のニーズがあります。実際、日銀が事務局を務める「日本円金利指標に関する検討委員会」において、市場参加者から、貸出・債券に関する複数の後継金利指標のうち、ターム物のRFRが支持を集めました*24。そこで、OISによるスワップ・レートそのものをLIBORに代わる「ターム物金利」として活用しようというアイデアが「東京ターム物リスク・フリー・レート(Tokyo Term Risk Free Rate、TORF)」です。理屈的にはOISのスワップ・レートをTONAの後決め複利に立脚した「ターム物金利」とする合理性はあります。服部(2020a)で強調しましたが、金利スワップとは固定金利と変動金利の「等価交換」です。例えば、読者が満期6か月のOISをレシーブするために証券会社にプライスを聞き、1%とレートを返されたとします(図表4)。前述の通り、金利スワップは「等価交換」ですから、この1%は、「(RFRとして望ましい性質をもつ)TONAの6か月間の後決め複利」の期待値と等価とみることが可能です。たしかに、TONAの6か月の(後決め)複利については6か月後にならなければ定まりません。しかし、変動金利(TONA)と固定金利を交換する金利スワップ(OIS)を用いれば、「(事後的に決まる)TONAの6か月間の後決め複利の期待値」と等価の固定金利を「現時点」で観察することができるわけです(もちろん、事後的には通常、OISの固定金利とTONAの6か月の複利金利は乖離します*25)。*24) 「日本円金利指標に関する検討委員会」は「日本円金利指標の適切な選択と利用等に関する市中協議」を公表し、市場参加者等の意見を募りました。「日本円金利指標に関する検討委員会」は、2019年11月29日に「取りまとめ報告書」を報告し、「ターム物 RFR 金利が、現行の事務・システムや取引慣行との親和性が高いことを理由に最大の支持を得る」という結果を報告しています。*25) 期待仮説が成立する場合(フォワード・レートが実際に実現する場合)、両者は一致しますが、期待仮説は成立していません。詳細は服部(2019)を参照してください。*26) 1か月や3か月のOISの場合、固定金利の支払う(受け取る)一方、TONAの1か月(3か月)の複利を支払う(受け取る)仕組みがとられます。*27) QUICKは、2020年2月に参考値の算出・公表主体に選定されました。公表にあたっては、市場参加者や金利指標ユーザーが事務体制等を整備するために用いる「参考値」の段階(フェーズ1)と、実際に取引に用いる「確定値」の段階(フェーズ2)の2段階に分かれます。「参考値」は、2020年5月から週次、10月から日次で公表されていました。図表4  スワップ・レート(固定金利)とTONAの6か月複利は等価交換スワップ・レート(固定レート)(本文の例では1%)変動金利(TONAの6か月複利)読者金融機関(スワップ・カウンター・パーティ)スワップは「等価交換」であるため、固定金利(スワップ・レート)と(事後的に決まる)TONAの6か月複利の期待値は「等価」とみることができるTORFの発想は、上述のロジックに基づき、OISのスワップ・レート(固定レート)を今から半年間の「ターム物金利」とみなすことで、TONAに基づく「前決めの金利」を定めるという発想です。このアイデアに基づけば、3か月円LIBORや6か月円LIBORといったターム物の金利については、3か月のOISや6か月のOISのスワップ・レートを取得できれば、マーケットでの取引に立脚したターム物金利が得られます*26。前節では、「6か月円LIBOR+スプレッド」という変動債を例にあげましたが、「TORF(6か月物)+スプレッド」という形で変動金利を定めれば、6か月後に支払うTONAに立脚した変動金利を「現時点」で定めることができます。これはまさにLIBORと同様に、前決めターム物金利といえましょう。「日本円金利指標に関する検討委員会」は上記を問題意識に、QUICKを新指標の算出・公表主体に選定し、1か月、3か月、6か月物についてターム物金利(TORF)の公表がなされています。具体的には、2021年1月、「株式会社QUICKベンチマークス(QUICK Benchmarks, QBS)」を設立し、4月から、QBSが「確定値」の公表を開始しています*27。TORFを算出するQBSは金融商品取引法が定める「特定金融指標算出者」に指定されており、証券監督者国際機構(International Organization of Securities Commissions, IOSCO)が定める「金融指標に関する原則」を遵守し、TORF算出の透明性と運営の健全性を保つ取り組みを行っています。 ファイナンス 2021 Dec.19リスク・フリー・レート(RFR)入門SPOT

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