ファイナンス 2021年12月号 No.673
21/86

ド」*17という形で債券を発行していたところ(服部(2021)では「6か月円LIBOR+2%」という例を取り上げました)、TONAを用いる場合、「TONA+スプレッド」という形で変動金利を定めます。そのうえで、6か月間*18に実際に発生したTONAの複利に一定のスプレッドをのせて金利を(利払のタイミングで)支払う仕組みにするわけです。これがTONAを用いて後決め複利金利を算出するイメージです。2.4 後決めのメリットとデメリットこのような金利の支払い方法は理屈上わかりやすいのですが、問題点は、この金利は支払いのギリギリのタイミングで金利が確定するという「後決め金利」*19であり、実務的には非常に使いづらいと感じる投資家が少なくない点です。服部(2021)で強調しましたが、LIBORの大きな特徴は「前決めターム物金利」であり、6か月円LIBORの場合、半年前に支払う金利が決まっている点が実務的に使いやすい点を強調しました。たしかに機関投資家などは毎日のように決済することに慣れていますが、一般の事業会社などにとっては直前に決まった金利をすぐに支払ってくれと言われても対応できないことがありえます。LIBORのように「前決め」であれば6か月後に支払う金利は現時点で確定してしまうため、支払いの準備の猶予は十分といえます。また、後決めの金利を受け取る側からみても実務的に面倒な点があります。例えば、6か月円LIBORであれば、前決め金利であるため、現時点で6か月後に支払う金利が決まっています。そのため、金利収入の見立ては確実ですし、それに付随した会計処理など様々な事務の準備が事前にできます。一方、TONAに基づいて「6か月の変動金利」を決めた場合は6か月後に金利収入が決まるため、受け取る側からしても様々な事務処理が複雑であるという問題があるのです。もっとも、TONAをベースとした後決め複利でも一*17) 社債などでは、国債の金利など、「ベース金利」にどの程度金利が追加されるかという意味合いで「ベース金利+スプレッド」という表現がなされます。社債の場合、このスプレッドには信用リスクや流動性リスクなどが含まれます。ベース金利には安全利子率(RFR)が用いられますが、国債の金利が用いられるだけでなく、LIBORやそれに紐づくスワップ・レートが用いられることがあります。この点は服部(2020a)で議論されています。*18) 日本では債券の利払いは通常半年に一回であることから、6か月間としています。*19) OISの場合、市場慣行ではフィクシングしてから2営業日後に支払います。*20) ブルームバーグ「三菱商事が劣後債1300億円を条件決定、初のTONA参照」(2021/9/3)を参照。*21) 金利指標問題に関する意見交換会「債券のフォールバック等について」を参照してください。定の工夫の余地があります。例えば、2021年9月に起債された三菱商事の劣後債がTONAを参照としたため話題になりましたが*20、そこではオブザベーション・ピリオド・シフト方式(参照期間前倒法)が採用されています。前述のOISのように後決め複利を計算すると直前に金利が決まるため、例えば、10営業日複利の参照期間をずらすことで支払金利が10営業日前に支払い金利が決定されるという工夫を行っています。図表2のイメージ図のとおり、支払うべき利払額は「利息計算期間×適用金利」になりますが、「利息計算期間」は利払いから利払いの間の日数とする一方で、適用金利を計算するためにTONAを参照する期間を10営業日前倒しするという工夫をしています。本来、支払い期間に相当する金利を支払うべきですが、実務的に余裕を持たせるために行った現実的な解決策といえましょう。図表2 オブザベーション・ピリオド・シフト方式のイメージ時間6か月複利の期間10営業日前にずらして6か月複利を計算して、それを6か月の変動金利とする利払日利払日10営業日前に複利計算をずらすここではオブザベーション・ピリオド・シフト方式を紹介しましたが、これ以外の調整方法もあります。日本証券業協会による資料*21ではTONAを用いた複利の算出方法として、OISのように計算する方法を「(0)Base Case」としたうえで、これ以外に(1)Payment Delay(支払日修正法)、(2)Rate Cut-off(参照金利留置法)、(3)Lookback(参照金利前倒法)、(4)Observation Period Shift(参照期間前倒法)の4種類の利用事例を紹介しています。図表3に概要を記載していますが、詳細は日本証券業協会による資料等を参照してください。 ファイナンス 2021 Dec.17リスク・フリー・レート(RFR)入門SPOT

元のページ  ../index.html#21

このブックを見る