ファイナンス 2021年12月号 No.673
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するデリバティブ契約でした。代表的な金利スワップは、固定金利と変動金利を交換するスワップです。変動金利として長年、日本では6か月円LIBORなどLIBORが用いられてきましたが、OISとは変動金利としてTONAを使う金利スワップでした。OISそのものは長年流動性が低いとされてきましたが、LIBORが停止することが決まって重要性を増し、流動性*13が高まってきている金利スワップです*14。ここで、読者が筆者とOISの契約を結んだ例を考えてみましょう。OISとは変動金利をTONAとする金利スワップでしたから、例えば、読者が固定金利を受け取る場合(レシーブする場合)、TONAを変動金利として支払います。この場合、固定金利がマーケットで1%であるとした場合(この固定金利をスワップ・レートといいました)、読者は筆者から年間1%を受け取る一方で、変動金利であるTONAを私に支払います。これを表した図が図表1です。OISは初学者にとって理解しにくいと言われますが、筆者の理解では、これは変動金利であるTONAの支払い方法に起因するものです。先ほどの例を挙げれば、読者は毎日定まったTONAを筆者に支払うわけですが、毎日入金するのはあまりに事務負担が多すぎます。そこで、読者と私で、例えば、今から1年後に、実際に実現したTONAに基づいて1年分の金利をま*13) 日本銀行「わが国短期金融市場の動向̶東京短期金融市場サーベイ(21/8月)の結果̶」のBOX 1において、円OIS取引の先行きに関する市場参加者の見方などもアンケートベースで紹介しています。*14) 従来、金利スワップでは、LIBORをインデックスとした金利スワップが主流でしたが、スワップ取引の時価評価については、2012年からJSCCにおいて、変動証拠金の計算に用いるディスカウントカーブをOISカーブとしています。いわゆるマルチカーブの世界に慣れている証券会社や銀行など金融機関にとっては、LIBOR移行によるディスカウントカーブの変更による影響は軽微かもしれませんが、まだOISディスカウントに移行していない投資家・発行体にとっては、金利スワップポジションの評価額(財務時価)が大きく変化する可能性もあり、社内外への説明など相応の準備が求められています。*15) OISの利払いの実務面については日銀による「日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」を参照してください。*16) ここでの「後決め複利」とは金利計算区間の実現複利で最終的な金利が決まることを指しています。ただし具体的な計算方法はISDAの定義に準じます。とめて支払ってください、という取り決めをしておくわけです(満期が1年を越えるOISの利払いの市場慣行(デイカウント・コンベンション)は年一回利払いです*15)。TONAは毎日変わるものですから、読者が支払うべき変動金利が確定するのはまさに1年後ということになります。このような仕組みを「後決め金利」といいます。注意すべき点は、このスワップ契約において、読者が変動金利として支払う金利は、正確には、1年間TONAで運用した場合の「複利」になります*16。本来、筆者はTONAを読者から毎日受け取るため、筆者はその受け取った金利も運用することができます。そのため、読者は1年後に筆者にまとめて変動金利を支払う場合、読者と筆者の間でフェアなトレードにするためには1年間のTONAの(金利の再投資収益も考えた)複利計算をして私に支払うという形にする必要があるわけです。そのため、OISでは固定金利を受け取る一方で、TONAの複利を支払うという設計がなされています。OISの仕組みを理解すれば、例えば6か月円LIBORの代わりにTONAを用いる場合、OISのように、TONAに立脚した「後決め複利金利」を金利として支払うことが自然であると感じられるはずです。例えば、ある会社がこれまで「6か月円LIBOR+スプレッ図表1 OISのイメージ固定金利(スワップ・レート)TONA(無担保コール翌日物金利)10年など一定期間交換を継続読者筆者(スワップ・カウンター・パーティ)16 ファイナンス 2021 Dec.SPOT

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