ファイナンス 2021年12月号 No.673
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点です。日銀の統計によれば無担保コール翌日物の出来高は1日あたり平均5兆円*3を超える規模です*4。冒頭で強調したことですが、LIBORの最大の問題点は、LIBORがパネル行のオファー・レートに基づいた指標金利であり、実際の取引に基づいていない点でしたが、TONAに立脚すれば操作される余地がない金利指標を得ることが可能です。服部(2021)で説明しましたが、ウォーター・フォール・アプローチでは出来高に基づく加重平均値(Volume Weighted Average Price, VWAP)が最も望ましいとされていますが、TONAはまさにVWAPに基づく金利といえます。日銀が公表するTONAは具体的には、算出対象取引のレートを、レート毎の出来高(レート毎の出来高は約定が成立した取引の金額)で加重平均します。そのデータは、情報提供会社*5から提供されるデータをもとに、レート毎の積数*6の合計値をレート毎の出来高の合計値で除すことによって算出します。速報値は当日の午後5時15分頃、確報値は翌営業日の午前10時頃公表されます*7。2.2  長年、政策金利として用いられてきたTONATONAは、日銀がオペレーション(公開市場操作)を行う際に誘導する短期金利として有名です。日銀によれば、金利が自由化し、1995年からは、短期市場金利を誘導するオペレーションを通じて金融市場調節を行うようになりました*8。特に、1998年以降の金融市場調節方針では、TONAを平均的にみて〇〇%前後で推移するよう促すなど、TONAに基づき誘導目標を具体的に定めるようになりました。量的緩和時やマイナス金利政策導入以降等、我が国において必ずし*3) 2017年から直近までの平均値を計算しています。*4) 単にオーバーナイトのリスク・フリー・レートでよいのであれば、満期の短い国債でもよいのではないか、という意見もあるかもしれません。もっとも、国債の場合、服部(2021)で強調したとおり、そもそもその日に売買があるかもわかりません。また、テクニカルには、国債の金利の場合、満期が一定の金利を得ることは困難です。例えば、3か月の短期債を財務省が本日発行したとしても、毎日刻々と年限が短くなります。そのため、満期が一定の金利を算出するには補間という作業が必要になります。なお、イールドカーブの補間の詳細は三宅・服部(2016)を参照してください。*5) 現時点では、上田八木短資株式会社、セントラル短資株式会社、東京短資株式会社の三社です。*6) 積数は、約定が成立した取引のレートに、その出来高を乗じたものです。*7) 詳細は日銀による「『コール市場関係統計』の解説」などを参照してください。*8) この段落での記述は下記の日銀の文章を参照しています。 https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/seisaku/b42.htm/*9) ここでの記述は東短リサーチ(2019)などに基づいています。*10) 白川(2008)では「日本のオーバーナイト金利のコントロールの正確性が高いのは、銀行券、財政資金とも予測精度が高いため、誘導目標を実現するために必要なオペ金額を比較的正確に把握しているからである(表8-8-5)。また、外生的な当座預金の予想増減額についての情報を公表することにより、民間銀行が資金繰り予想を立てやすいように努めていることも、大きな金利変動を防ぐことに寄与している」(P.172)としています。*11) 米ドルLIBORに代替されるRFRは担保付翌日物調達金利(Secured Overnight Financing Rate, SOFR)であり、米国債が担保となる金利(つまりレポレート)です。SOFRについては今後の論文で取り上げます。*12) 例えばスイスなどです。もTONAが政策金利として使われているとは限りませんが、TONAは金融政策と密接な短期金利ということができます。日本でTONAを政策金利とした背景には、長い間、短期金利として日銀が誘導しやすい金利とされていたことが主因です*9。短期の資金需給の予測精度は、我が国では非常に高いとされており*10、銀行間の貸借の需給であれば、日銀が当座預金による調整で操作しやすいといえます。また、レポ市場の金利(国債などを担保にした時の調達コスト)に比べ、債券の需給などその他の要因は影響されにくいとされています*11。もっとも、国によって政策金利として用いられる短期金利は様々であり、LIBORが政策金利として使われていた国もあります*12。2.3  オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)とはTONAが実際の取引に立脚した金利であることから、RFRとして望ましい性質を有する点は上述のとおりですが、LIBORの代替金利という側面を考えると、必ずしもすべて望ましい性質を有しているとは限りません。特に、TONAはオーバーナイト(1営業日)の金利である一方、6か月円LIBORは「6か月間の金利」(これを「ターム物金利」といいました)という違いがあり、直接代替することはできません。結論を先に書くと、LIBORの代替金利としてTONAを用いた場合、TONAで一定期間複利運用した場合の金利(後述する「後決め複利金利」)を用います。ここではこの意味を具体的に考えるため、ここからオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)について考えていきます。金利スワップとは、服部(2020a)で解説したように、異なる金利を等価交換 ファイナンス 2021 Dec.15リスク・フリー・レート(RFR)入門SPOT

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