ファイナンス 2021年12月号 No.673
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1はじめに*1筆者が執筆した「金利指標改革入門」(服部, 2021)ではOTC市場の概要を説明した後、ロンドン銀行間取引金利(London Interbank Oered Rate, LIBOR)の基本的な仕組みやLIBOR不正操作問題、その後のLIBOR改革について触れました。本稿では服部(2021)を前提に、我が国で用いられるLIBORの代替金利について説明します。服部(2021)で強調したことですが、LIBORの最大の問題点は、パネル行のオファー・レートに基づいた指標金利であり、実際の取引に立脚しないことから操作する余地が生まれた点です。我が国では、LIBORに代わるリスク・フリー・レート(Risk Free Rate, RFR)として無担保コール翌日物金利(Tokyo OverNight Average rate, TONA)が採用されましたが、TONA(実務家は「トナー」と読みます)は後述するとおり一日で数兆円もの取引で決定される短期金利です。その意味で、我が国ではLIBORの代替となるRFRとして、実際の取引に立脚した操作の余地がないTONAが採用されたと言えます。服部(2021)ではLIBORが「前決めターム物金利」であることから実務家にとって使いやすい側面も強調しました。我が国では、LIBORに代わる前決めターム物金利として、東京ターム物リスク・フリー・レート(Tokyo Term Risk Free Rate、TORF)が導入されましたが、TORF(実務家は「トーフ」と呼びます)はTONAを参照するオーバーナイト・インデックス・スワップ(Overnight Index Swap)に基づく金利指標です。そのため、本稿ではTORFの考え方とともに、OISの仕組みについても丁寧に説明をします。*1) 本稿の作成にあたって、市川達夫氏、川名志郎氏(金融庁)、後藤勇人氏、富安弘毅氏等、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。本稿につき、コメントをくださった多くの方々に感謝申し上げます。*2) 下記をご参照ください。 https://sites.google.com/site/hattori0819/なお、本稿では金利スワップの基礎を前提とさせていただくため、金利スワップの基礎的内容については服部(2020a)を参照していただければ幸いです。また、筆者がこれまで執筆してきた一連の債券入門シリーズについては筆者のウェブサイトにまとめて掲載してありますので、そちらもご参照いただければと思います*2。2無担保コール翌日物金利(Tokyo OverNight Average rate, TONA)2.1 無担保コール翌日物金利とは本稿では、まず無担保コール翌日物金利(TONA)を取り上げます。TONAとは金融機関同士が無担保で実際に取引した際のオーバーナイト(1営業日)の金利に相当します。金融機関の間でたった1営業日貸し出す金利ですから、ほとんど信用リスクがない金利と解釈できます。TONAとは、銀行間で資金の融通をする、いわゆる「コール市場」と呼ばれる市場で形成される金利です。コール市場における「コール」とは、「呼んだらすぐにくる」という意味であることから短期の資金調達を行う市場になりますが、最も流動性がある取引はオーバーナイトの取引であり、TONAはその金利の加重平均値になります。コール市場では、1営業日かつ無担保という条件を満たす金利以外にも、異なる期間や有担保の貸借もなされています(詳細は東短リサーチ(2019)を参照してください)。LIBORの代替金利という観点でみると、TONAの最大の強みは、「実際の取引に基づいた金利」である東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1リスク・フリー・レート(RFR)入門-TONA,TORF,OISを中心に-14 ファイナンス 2021 Dec.SPOT

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