ファイナンス 2021年11月号 No.672
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ホ)交通については、パスサニテール導入の影響は特段見られない。長距離公共交通機関のパスサニテール義務化が乗用車による移動を増加させるという現象は確認されなかった。INSEEも指摘しているように、パスサニテールの経済的インパクトの測定に活用可能なデータは少なく、また、各セクターの経済活動の動向にはパスサニテール以外の要因も絡んでいるため、パスサニテールの導入・対象拡大が経済に与えた影響のみを切り出すことは困難であり、安易にパスサニテールの成否を判断することはできない。しかしながら、7月以降、デルタ株による感染拡大が発生したものの、特段の規制強化なく感染状況が落ち着き、経済指標も概ね良好に推移しているという事実からすると、感染拡大をコントロールして医療システムへの過度な負担を避けつつ、可能な限り通常に近い経済社会活動を行うというパスサニテールの所期の目的は達成されていると言える。 7 おわりに感染状況が落ち着いていることを受けて、パスサニテールの適用対象を一部緩和する動きが出てきている。これまで2万m2超の大規模商業施設は、地方長官の決定により、入場時にパスサニテールの提示を求めることとされていたが、パスサニテールの影響で客足が遠のいていたことも踏まえ、9月8日以降、10万人当たりの新規感染者数が200人を下回り、新規感染者数の減少が7日以上継続している県にある施設については、パスサニテールの適用対象から外されることとなった。パスサニテールの法律上の期限は11月15日までとされているが、現在(10月末)、議会で審議されているパスサニテールの延長に関する法案には、来年7月31日までパスサニテールを実施することを可能とする条項が盛り込まれている。これについて、政府は、来年夏まで現行のパスサニテールをそのまま維持することを意図しているものではなく、仮にパスサニテールを解除したとしても、その後の状況の変化に応じて再導入できる態勢を整えておくことが目的であると説明している。地域単位のパスサニテールの緩和などが取り沙汰されており、今後、いつ、どのような形でパスサニテールの段階的な解除が進められるのかが注目される。パスサニテールの不正使用の件数、罰則適用件数といったパスサニテールに関する不正の全体像は公表されていない。例えば、カフェで店員がパスサニテールを確認する際、そのパスサニテールが利用者本人のものか確認するには身分証明書の提示を求める必要があるが、そのような対応は行われていない。このため、他人のパスサニテールを使用するケースは相当程度存在していると推測される。名前が表示された瞬間に怪しまれるので、さすがに不正使用する人はいないかもしれないが、マクロン大統領やカステックス首相のパスサニテール(QRコード)がインターネット上で拡散されている。前者の出どころは定かではないが、大統領府は医療関係者が原因としている。後者は、メディアの映像に映り込んだものを拡大したようである。また、医療関係者によるパスサニテールの偽造も行われており、9月23日の報道では、270人の医療関係者が偽造に関与し、36000人が偽造パスサニテールの利益を受けたとされている。コラムパスサニテールの不正68 ファイナンス 2021 Nov.海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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