ファイナンス 2021年11月号 No.672
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ランス国鉄)はパリの主要駅に短時間で結果が判明する抗原検査の検査場を設置しており、検査結果が陽性だった場合はチケットの交換又は払い戻しに応じるとしている。筆者は、夏の間に、パリ市内の主要駅でTGV乗車時に二回、降車時に一回、パスサニテールの確認を受けた。政府は、長距離列車の25%でパスサニテールの確認を行うことを目標としているが、筆者は十回利用して三回チェックを受けているので目標どおりの検査率が達成できているのかもしれない。美術館などにおいても、上記のカフェ・レストランと同様、職員によるパスサニテールの確認が行われている。現状では、パスサニテールの確認のために「TousAntiCovidVerif」を持った人間を配置している施設がほとんどであるが、自動読取機を設置する施設も出てきている(筆者の知る限り、自動読取機は、提示されたQRコードを読み取るだけで、駅の改札のように無効なパスサニテールの所持者の入場をブロックできるものではない。こうした者をブロックするためには、職員が近くにいる必要があるが、人件費節約のために自動読取機だけ設置している施設も多いと思われる)。 5 自由の侵害か、公共の利益かフランス人の国民性に関して、個人主義・反権力(個人の権利と自由を主張し、それが侵害されそうになると、ストライキ・デモといった具体的行動で政府などへの不満を表明する)といったことが語られることが多い。その実例として、燃料価格上昇と燃料増税による負担増への反発に端を発して、様々な社会不満を巻き込み、政権を揺るがす大きなうねりとなった「黄色いベスト運動」(2018年11月開始)や、一ヶ月以上にわたって公共交通機関が全面的にストップした年金改革反対の大規模ストライキ(2019年12月開始)は記憶に新しい。パスサニテールについて、フランス国民はどのような反応を見せたのだろうか。マクロン大統領が7月12日にパスサニテールの適用対象の拡大を表明して以降、パスサニテールは個人の自由を侵害するものであるとして、これに反対する声が一層大きくなった。パスサニテール反対派の一部上下院議員の付託により、適用対象拡大を規定する衛生危機管理に関する法案は、憲法院による審査の対象とされ、8月5日に憲法院の判断が示された。付託者は、百貨店やショッピングセンターへの入場、公共交通機関の利用の際にパスサニテールの提示を求めることは、感染拡大防止の効果はなく、追求す某施設入口にあるパスサニテール自動読取機。裏側を見ると、タブレットを貼り付けただけの簡易なものであることが分かる。近くに職員の姿は見当たらない。 ファイナンス 2021 Nov.65海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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