ファイナンス 2021年11月号 No.672
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1 はじめにフランスでは、今年の夏から、「パスサニテール」(pass sanitaire、衛生パスポート)を導入しており、例えば、カフェに入ろうとすると、店員は、「ボンジュール」の挨拶に続けてパスサニテールの提示を求めてくる。新型コロナ危機が発生してから、フランスではこれまでに三度のロックダウンが実施された。ロックダウン期間中は、外出するたびに外出証明書を作成する必要があったが、今は、パスサニテールが外出時の必須アイテムとなっている。街の至るところで求められ、日々の生活にすっかり溶け込んでいる感のあるパスサニテールであるが、人権の母国、そして抗議デモの大国と言われるフランスにおいて、パスサニテールがどのような経緯で導入されたのか、その運用状況、世論の反応、経済的インパクトなどについて、簡単に紹介することとしたい。なお、フランスでは、ワクチンパスポートを意味する「パスヴァクシナル」(pass vaccinal)という用語も存在するが、フランス政府は、ワクチン接種のみに紐づいたものではないことを明確にするためにパスサニテールという用語を用いていることから、本稿においても、パスサニテールの語を用いる。また、パスサニテールは、EU域外・域内の国境措置としての性質と、感染抑制と経済社会活動の両立を図るという国内措置としての性質を有するが、本稿では主として後者に焦点を当てる。 2 パスサニテールの概要フランスのパスサニテールは、イ)ワクチン接種完了(ファイザー・モデルナ・アストラゼネカ製は二回目接種から7日経過、ジョンソンアンドジョンソン製は接種から28日経過、コロナ罹患経験者はワクチン接種から7日経過)、ロ)72時間以内に取得したPCR検査又は抗原検査での陰性ハ)11日前から6か月前の間のコロナ罹患からの回復のいずれかを証明するデジタル又は紙の証明書のことを指す。2021年9月末時点で、カフェ、レストラン、美術館、劇場、映画館、スポーツ施設、TGV(フランスの新幹線)、特急列車、航空機、長距離バスなどが対象となっており、これらの施設やサービスの利用者に対してパスサニテールの提示義務が課され、施設管理者やサービス提供者には利用者のパスサニテールを確認する義務が課されている。罰則も設けられており、利用者がパスサニテールを提示しなかった場合は135ユーロの罰金となり、施設管理者等にパスサニテールの確認懈怠があった場合には当該施設等は一時的な閉鎖命令の対象となるとされている。また、パスサニテールの偽造又は不正使用は、最高で拘禁3年及び罰金45000ユーロとされている。海外ウォッチャー在フランス日本国大使館一等書記官 田中 林太郎FOREIGNWATCHER人権の母国・抗議デモの大国フランスにおけるパスサニテール62 ファイナンス 2021 Nov.連載海外 ウォッチャー

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