ファイナンス 2021年11月号 No.672
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PRI Open Campus~財務総研の研究・交流活動紹介~2021年10月に、「輸出入申告データを活用した共同研究」の公募が開始された。今後、財務総合政策研究所では、輸出入申告データ(以下、「税関データ」と呼ぶ)を用いた統計的研究を実施していくこととなるが、これまで日本以外の国では、税関データを活用した様々な研究事例がある。本稿では、共同研究の開始に先立って、こうした研究事例を踏まえて、「税関データで何がわかるのか」を、企業の貿易行動、貿易実務、政策効果の3つの視点から整理する。なお、様々な研究事例における詳細な分析方法や学術的な貢献に関しては、今後財務総合政策研究所のリサーチ・ペーパーとして発表を予定しており、本稿では主にデータや研究から得られる示唆をわかりやすく整理することとしたい。1 税関データを活用する意義・利点これまで、日本以外の国では、税関データを研究目的に活用することにより、様々な観点からの研究が活発に行われており、2007年頃から国際的な学術論文雑誌にもその研究成果が掲載されている*1。これらの先行研究は日本の税関データを活用した分析に対しても大いに参考になるであろう。本稿では経済学の用語等を極力排して、税関データを活用した過去の研究事例を紹介したい。紙面の都合上、国際貿易論の研究事*1) 筆者が確認する限りでも、米国、フランス、ブラジル、ポルトガル、中国、ノルウェー、アイルランド、トルコ、ベルギー、ペルー、メキシコ、タイ等の税関データを活用した論文が発表されている。詳しくはリサーチ・ペーパー参照。*2) 取引別データは最も細かい単位のデータであり、このデータを活用すれば国別や年別はもちろん、取引者別、品目別、日別など様々な形式に加工することができる。*3) https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/kyoudou/public/index.html例を、主に使用したデータやそこから導かれた政策的な示唆を中心に記述する。税関データを学術研究に活用する利点は、主に3点ある。1点目は、輸出入を行う事業者(企業)の特性を踏まえた分析を行うことができることである。例えば、日本においては、集計された貿易統計では品目別の貿易データのみを利用することが可能であるが、税関データを用いることによって、取引別データ*2を活用し、どのような特徴の企業がどのような貿易行動を行っているのかを統計的に分析することができる。2点目は、日次の貿易データを参照することで、輸送や貿易に関する様々な費用や所要時間等に関する詳細な分析を行うことができる。そして3点目は、輸出と輸入を紐づけた分析が可能となることによって、中間財・最終財の貿易動向や生産・販売を加味した貿易分析を行うことができることである。2021年10月に公募が開始された「輸出入申告データを活用した共同研究」における「利用可能なデータの内容」*3によると、輸出入申告データのうち、申告年月日、仕向人名・仕出人名(外国における輸出貨物の取引相手の名)、輸出入者名、NACCS品目コード、インボイス通貨及びインボイス価格、運賃、関税額などのデータが利用可能とされている。これらのデータは、日本以外の国で行われている税関データを用いた研究において用いられているデータと比較しても遜色財務総合政策研究所 総務研究部 研究官 吉元 宇楽京都大学大学院経済学研究科 博士課程 伊藤 麟稀京都大学大学院経済学研究科 博士課程 小澤 駿弥税関データで何がわかるのか。154 ファイナンス 2021 Nov.連載PRI Open Campus

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