ファイナンス 2021年11月号 No.672
53/84

日本酒消費における情報伝達の重要性・販売数量を維持しつつ高価格化を実現するには、多くの消費者に高い付加価値を認識してもらう必要がある。しかし、消費者一人一人が、自ら製品の付加価値の高さを認識し、製品を購入する機会を見つけることは難しい。・日本酒の中には、世界的な酒であるワインに劣らない高品質な製品が存在しており(図表8)、生産者が1000社以上存在し(図表4)、製品の味わいが多様である。一方で、味の好みも消費者によって多様に分かれている(図表9)。そのため、日本酒の国内消費は小売においては消費者に多くの情報を伝達できる一般酒販店の販売割合が他の酒類よりも高く(図表10)、飲食店においても「店員のすすめ」が重視されており(図表11)、価格やラベル以外の情報も得た上での消費行動が推察される。・より多くの消費者が、製造業者や流通業者からの情報伝達によって、自身にとって美味しい(=付加価値が高い)と思う日本酒に出会うことで、高価格を受容する消費者が増え、高価格化と販売数量の維持が実現するだろう。・高い付加価値を認識してもらうための消費者への情報伝達は言語、文化の異なる海外においても一層重要であるが、約46%の製造業者は「流通業者に一任しているため販売先不明」と回答しており(図表12)、誰に販売されているかを把握していない。このような状態では、消費者にとって有効な情報の発信をすることは難しいだろう。(図表9)消費者の味の好みの多様性男性20代男性30代男性40代男性50代男性60代以上女性20代女性30代女性40代女性50代女性60代以上若々しい(n=1,550)-0.4-0.3-0.2-0.100.10.20.30.4-0.4-0.3-0.2-0.100.10.20.30.4熟成感甘口辛口(図表11)飲食店で飲用する際に重視する点(n=1,550)1位2位3位男性20代価格味店員のすすめ30代味店員のすすめ銘柄40代味店員のすすめ銘柄50代味製法価格60代~価格味店員のすすめ女性20代味店員のすすめ友人のすすめ30代味店員のすすめ友人のすすめ40代味店員のすすめ季節感50代味製法店員のすすめ60代~店員のすすめ味製法(図表10)酒類別のチャネル割合100%50%0%清酒焼酎ビールリキュール発泡酒一般酒販店コンビニスーパー百貨店量販店業務用卸主体店ホームセンター・ドラッグストアその他(図表12)日本酒輸出の販売先その他スーパー、コンビニ等の小売店百貨店等の大型店流通業者に一任しているため販売先不明飲食店20%0%40%60%日本酒のさらなる情報発信に向けて・日本酒業界の発展には、消費者にその高い付加価値を認識してもらう必要があり、そのためには各プレーヤーが製品の魅力を理解し、消費者に伝えることが重要である。日本酒製造業者は自社製品の製造方法、食べ合わせ等の特徴を把握し、それを流通業者に発信しなければならない。流通業者がそれを消費者に分かりやすく伝えることで、消費者は好みの日本酒に出会えるであろう。・飲食店が消費者により情報を発信できるようになるために、日本ソムリエ協会では、2017年に日本酒・焼酎に特化した資格「SAKE DIPLOMA」を創設した(図表13)。日本酒製造業者が直接海外の流通業者や飲食店に製品情報を伝えられるように、国税庁では、各地で日本酒を周知するイベントを行っている(図表14)。さらに、日本酒製造業者が直接消費者に情報伝達できるように、海外向けプロモーションを支援する越境ECサイトや、ペアリングや飲み方等を提案する国内向けECサイト等が誕生している(図表15)。・需要縮小に苦しむ製造業者にとっては、これらの取り組みを利用し、直接間接に消費者に自社製品の特徴や魅力を発信し、認知してもらうことが重要である。(図表13)DIPLOMA資格保有者数推移資格保有者数2017201820192020SAKE DIPLOMA1,4582,4363,3034,287SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL1648111(参考)ソムリエ32,56634,70036,50038,481(参考)その他ワイン資格28,96930,04531,51433,165(人)(図表14)日本酒普及イベントイベント名開催地ターゲット概要「Imbibe Live 2019」ロンドン海外バイヤー等英国最大級の酒類見本市「Imbibe Live 2019」に、日本産酒類プロモーションブースを出展。試飲商談会やセミナーの開催を行った。日本酒商談会日本ヨーロッパを中心に活動するドイツのバイヤー山形県及び兵庫県の日本酒製造業者11社が参加し、商談会に併せて、酒蔵視察を行い、バイヤーに対して製造工程等を解説し、日本酒の特徴や魅力を発信。「SALON DU SAKE 2019」パリ欧州の日本酒ファン、事業者等日本酒のプロモーションの一環として、「日本酒の新しいトレンドやペアリング」に関するセミナー及び「チーズと日本酒のペアリング」に関するワークショップを実施し、延べ86名の酒類関係業者(バイヤー、レストランオーナー)等が参加。「G20大阪 サミット」大阪各国代表団、メディア関係者等サミット会場に設置された国際メディアセンターにおいて、日本産酒類のプロモーションブースを設置し、3日間で延べ約1,700名が同ブースに来訪。開催地である大阪や関西の酒類はもとより、地理的表示(GI)地域、東日本大震災の被災地の酒類を含めた幅広い日本産酒類をPR。(図表15)EC販売サイト事例ECサイト事例概要越境ECサイト(香港向け)SAKEYOI・酒造側の手間軽減のため、国内外の配送、酒税対応、輸出手続き、プロモーションまで、一連のサービスを提供。・少量生産の逸品を世界に紹介。顧客のニーズに応えて、複数本のセットをメインに商品を展開。・顧客窓口にFacebook Messangerを導入し、購入前の質問や食品とのマリアージュの相談を専門スタッフが個別に対応。越境ECサイト(中国向け)豌豆(ワンドウ)プラットフォーム・越境ECアプリでの販売に加え、中国国内大手ECプラットフォーム内での日本酒を専門に取り扱う旗艦店の開設や、日本酒のブランド旗艦店の運営代行、オフラインでの販売などを行う。・日本酒の歴史や文化、各地方酒蔵のブランドストーリー等のコンテンツも提供。国内向けECサイトKURAND・日本酒のサブスクリプションサービスを展開。・地方の小規模な約50の酒蔵とパートナーシップ契約を結び、酒蔵と共同で約50種類のオリジナル商品をプロデュース。国内向けECサイトSakenomy・全国1300軒を超える酒蔵や数万を超える日本酒情報を保有。・720ml以下で酒蔵直送のみと、鮮度にこだわりを持つ。・日本酒情報、お酒に合う料理、おすすめの酒器、お酒に合うお取り寄せ情報等、酒蔵による公式情報を発信。(出典)財務省「貿易統計」、経済産業省「工業統計」、国税庁「酒のしおり」、国税庁「清酒製造業の概況」、WHO「Global Status Report On Alcohol」、WHO「European Status Report on Alcohol and Health 2010」、WHO「Global status report on alcohol and health」、ボルドー格付け61シャトー一覧(https://wine-temiyage.com/bordeaux_grands_crus_classes_61/)、日本酒製造業者各社HP、日本政策投資銀行「福島県の日本酒再興戦略~酒処ふくしまの更なるブランド力と知名度向上に向けて~」、国税庁「酒類小売業者の概況」、国税庁「清酒製造業者の輸出概況」、一般社団法人日本ソムリエ協会HP、国税庁「酒類行政の取組等について」、ECサイト各社HP (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2021 Nov.49コラム 経済トレンド 89連載経済 トレンド

元のページ  ../index.html#53

このブックを見る