ファイナンス 2021年11月号 No.672
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コラム 経済トレンド89大臣官房総合政策課 調査員 白井 斗京/岡 昂一郎日本酒の需要拡大における情報の重要性本稿では、日本酒の消費拡大に向けた課題と、目指すべき方向について考察する。日本酒業界の現況・日本酒は日本で伝統的に製造されている酒であるが、その国内消費量は1973年をピークに減少を続けている(図表1)。・そのような中、近年では所管官庁である国税庁やクールジャパン機構などによって、海外に向けたPRが積極的に行われている。輸出金額は増加を続け、この10年間で約3倍になっている(図表2)が、国内生産に対する割合は依然として小さく、出荷のほとんどが国内需要向けである(図表3)。・そのため、日本酒製造企業数は減少を続け(図表4)、構成割合の大きい小規模製造業者は欠損・低収益(税引き前当期純利益が50万円未満)の割合が6割弱を占めている(図表5)。・日本酒業界の発展のためには、需要の多くを占める国内市場と、増加している海外市場の双方での対策が必要である。(図表1)酒類別消費量2,0004,0006,0008,00010,00012,000197019731976197919821985198819911994199720002003200620092012201520180(百万L)清酒焼酎ビールリキュール発泡酒その他(図表2)酒類別輸出額1201008060402001611492712510381611492712510381620112012201320142015201620172018201920202021(億円)清酒ウイスキービールリキュール焼酎ワイン(図表3)日本酒の国内出荷、輸出額201220132014201520162017201820195,0004,0003,0002,0001,00002011国内輸出(億円)(図表4)製造数量別企業数2,0001,5001,0005000(社)100KL以下100~500KL500~5,000KL5,000KL以上19972002200720122017(図表5)製造数量別、欠損・低収益企業割合1997200220072012201780.060.040.020.00(%)100KL以下100~500KL500~5,000KL5,000KL以上日本酒の売上増加・生存戦略の方向性・しかしながら、販売数量の拡大にはどうしても限界がある。・国内のアルコール市場は、高齢化と人口減少に伴い全体の消費量が減少する一方、その内訳は消費者の嗜好に合わせて多様化しており(図表1)、日本酒の市場環境は厳しさを増している。・また、海外において、広く日常的に飲まれる酒になることも難しいと考えられる。フランスにおけるワイン、ドイツにおけるビールのように、各地域には、地域に根差した飲料が存在し、それらのシェアは長期的には減少しているものの、依然消費量の半分程度を占める(図表6)。これらの酒は地域の伝統的な食文化とも関連しており、日本酒がその地位を取って代わる可能性は低い。・国内外ともに販売数量の拡大に限界がある以上、日本酒製造業者の売上増加と存続のためには高価格化が重要となる。・近年、国内出荷、輸出ともに単価は増加傾向であるものの(図表7)、日本酒と同じ食中酒でアルコール度数も近いワインと比較すると、日本酒は品質の割に価格が低く(図表8)、今後も高価格化の余地はあると考えられる。(図表6)フランス、ドイツのアルコール消費量(純アルコール換算・15歳以上人口あたり)(L/人)1519962005フランス201020160(L/人)1510105519962005ドイツ201020160ビールワインその他合計(図表7)日本酒の国内出荷、輸出単価201120122013201420152016201720182019(円/L)1,000950900850800750700650600550500国内輸出(図表8)品質評価と価格の関係71211.51110.5109.598.587.5889092949698100パーカーポイント価格対数目盛(注)パーカーポイントは、価格や知名度に関係なくワインの品質を評価するためにワイン評論家のロバート・パーカー氏が始めたもので、2016年に日本酒についての評価も公表された。100点満点で評価され、点数が高いほど品質が良いとされる。ボルドーワイン日本酒R2=0.6173R2=0.077948 ファイナンス 2021 Nov.連載経済 トレンド

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