ファイナンス 2021年11月号 No.672
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準の強制力は、ある側面では、ハード・ロー以上にハードである。FATF基準とは、国際金融システムへのアクセスを担保に取った、実質的な強制執行のメカニズムであり、更にその根幹には、世界通貨としてのドルの力がある。このような態様につき、他の国際規範に類似例を求めることは難しい。強いて言えば、スコープはFATF基準より遥かに絞られるが、昨今OECDにおいて採択され、日本も採用している「共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)」*10がこれに近いと言える。また、国際的枠組とは言い難いが、ドルを有する米国が発動する各種金融規制や、イラン等に対するユニラテラルな金融制裁は、それに関与した外国金融機関等に対する米国政府からの制裁が含まれている。これらは、他国からは域外適用との批判を受けることもあるが、特に後者は違反した外国金融機関を実質的にドル決済から締め出すことまでが想定されており、これによって、金融機関としては現実問題としてはその遵守を確保せざるを得ない立場に置かれることとなるという意味で、FATFプロセスと*10) 外国の金融機関等を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するため、非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準。*11) この審査プロセスは、FATF内に設けられた、International Co-operation Review Group(ICRG)という(ややオブラートにくるんだ名称の)部会で行われる。そのプロセスに組み入れられるための要件の詳細は、以下を参照。 https://www.fatf-gafi.org/publications/high-riskandnon-cooperativejurisdictions/more/more-on-high-risk-and-non-cooperative-jurisdictions.html?hf=10&b=0&s=desc(fatf_releasedate)の同質性が認められる。この点は、地下資金対策における国際的枠組とユニラテラリズムの相克という観点からも興味深い事象である。なお、グレイリスト掲載等の措置を取られる可能性が生じるのは、メンバー国として相互審査を受け、その成績が不芳であった場合だけではない。前章において、FATFが拡大していくプロセスについて解説したが、その中で、FATF(及びその実質的な地域支部であるFSRB)への不参加自体が不利益となり得ることが、拡大の原動力である旨述べた。実際のところ、手続規定上、リスト掲載等の措置を見据えた特別な審査プロセスに引き込まれる第一の要件は、何と、このFATF体制への不参加そのものである*11。このような要件を設けることには、FATFにうるさい事を言われる位なら、初めから参加しない、或いは脱退するといった「逃げ得」を許さないという意味で、合理性は認められる。勿論、FATFは主権国家の自発的な枠組みに過ぎないから、審査プロセスに召喚され、説明を求められたからと言って無視することは理屈の上では図表2 ブラックリスト及びグレイリスト掲載国(2021年10月時点)(筆者作成)44 ファイナンス 2021 Nov.連載還流する 地下資金

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