ファイナンス 2021年11月号 No.672
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IMFにおいて、現在では、金融セクター評価プログラム(FSAP:Financial Sector Assessment Program)や、いわゆる4条協議といったサーベイランスの項目の中に、FATF基準の遵守が含まれている*6。なお、このような活動の一環として、IMFはFATF自身や世銀とも密接に共働している。しかし、何と言っても最も強力な関与と言えるのは、IMFからの様々なファシリティの下での融資に当たり、財政規律の効率化や経済構造の効率化といった、おなじみの融資条件と並び、直截に地下資金対策に関連する項目が盛り込まれる場合である。こうなると、借入国としてはそれまで以上の切迫感を持って条件の達成に取り組まざるを得ない。仮にそれらの条件が満たされず、IMFが融資から手を引くという事態にでもなれば、それだけでも十分なダメージとなるばかりか、事はその範囲だけには留まらず、協調融資をしている他の貸し手(他の国際機関やバイラテラルの融資国)、更には、民間の海外投資家や金融機関の行動にも影響を及ぼす可能性がある。これは、基準遵守を促すレバレッジとしては、これ以上ない程に大きいものである。なお、その他の国際的組織について見ても、金融安定化理事会(FSB)が主要基準の一つの要素としてFATF勧告を参照している他、バーゼル委員会(BCBS)・保険監督者国際機構(IAIS)・証券監督者国際機構(IOSCO)が、共同でFATF勧告の遵守を促している*7。次項で述べる通り、FATF基準には審査プロセスを通じてそれ自体としての実質的強制力が生み出されているが、その力は、このような「入れ子」構*6) Anti-Money Laundering and Combating the Financing of Terrorism Inclusion in Surveillance and Financial Stability Assessments, IMF Guidance Note, 2012*7) 石井由梨佳『越境犯罪の国際的規制』有斐閣、2017年、P.397-399 Key Standards for Sound Financial Systems, Financial Stability Board Joint Forum, Initiatives by the BCBS, IAIS and IOSCO to Combat Money Laundering and the Financing of Terrorism, 2008造を通じて一層拡幅されていると理解することが可能である。2.相互審査と実質的強制力の獲得FATF基準が、ハード・ローとソフト・ローという二分論を超克していると言った場合の第二の含意は、その審査プロセスから導出される。FATF基準に従って、各国は審査を受けることになる。具体的には、各国が審査員を拠出し合って審査の都度ごとにチームを結成し、書面審査及びその国に行っての対面審査を経てチームとしての評価を出し、それを各全体会合に順次諮って行く。全体会合では、被審査国も含めた参加国でその評価について議論し、一部の評価についてはアップグレード・ダウングレードの検討がなされた上で、最終的な評価が決せられる。この点が世間一般で曲解されがちなところなのであるが、このように、審査は徹頭徹尾、参加国の間で行われるものであり、それ故にこのプロセスは「相互審査(mutual 図表1 地下資金対策に関する国際規範の関係性(概念図)(筆者作成)42 ファイナンス 2021 Nov.連載還流する 地下資金

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