ファイナンス 2021年11月号 No.672
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されている。巨大食品会社は資金力、政治力を背景に人類の健康、地球の持続性を脅かすことも辞さない。富裕層も若者も含め、食生活はSNS等他の娯楽活動の付属的行為になり下がった。最貧層は飢餓、体に悪い安価な加工食品で命を落とす。人類は食を通じた会話を放棄し太古のノマドへ逆戻りしつつある。他方、「例外の国」フランスでは、25人以上の従業員が会社での昼食を望む場合、会社は机、椅子、オーブン、冷蔵庫、飲料水を備える部屋を確保する義務があり、食における会話の重要性が根付いている。4.人間らしく生きるための処方箋肉類消費抑制、食品ロス抑制に向けて努力しつつ、地球環境に優しい小規模農家への財政支援を講じる。これは食品価格を上昇させるが、食の消費を増やしクルマ、スマホ等食以外の消費を減らすことは人類の健康な食生活のために必須であり、医療費抑制にも繋がる。地産地消を進めれば、食品の安全性を高め、長距離輸送を減らしCO2排出を減らせる。アレルギー、公衆衛生、絶滅リスクに注意しつつ、蛋白質等の栄養に富む昆虫食の普及を進めることも選択肢。FAO(国連食糧農業機関)等も活用して、巨大食品会社を監視する国際的な枠組みを設けることも検討すべき。個々人は節酒、節食、少糖多菜に努める必要があるが、糖の中でもブドウ糖は脳の唯一のエネルギー源なので適量摂取が不可欠であることに留意。会食は大事であり、誰もが一日に数回、常識的な時間に好きな人達と過ごし、食や地球環境保全等の重要課題に考えを巡らせるべき。崩壊・再婚家族でも家族の会食時間が会話・伝承・創造・成熟の場として機能するよう、社会・家族の諸権利を見直す必要がある。本書の醍醐味私見巻末の資料は、欧米の著名な食品ブランドの多くが十大世界食品会社の傘下に入ったことを示す。個人的には、ブルターニュの古都ナントを拠点とするフランスの国民的菓子メーカーのLUが十大世界食品会社の一つである米国のモンデリーズ・インターナショナルの傘下に入ったことを知り愕然とした。著者は母国フランスの食事情を礼賛する一方、米国、英国のそれを強い言葉でほぼ全否定しているので、読者によっては抵抗感を覚えるかもしれない。尤も、巻末の資料は全世界がフランス人の食生活を模倣すると現在の地球人口の半分強しか養えない現実を突きつける。著者を日本通と評する向きもあるが、本書を通じて日本の食事情に向ける眼は案外厳しい。なお訳書には原書のニュアンスが的確に反映されていないのでは…と思われる箇所が散見され、一次情報に接する重要性を自戒と共に再認識した。また近年の著作なのにDX、ESG等の今時の定番キーワードが登場しないのも却って新鮮に感じる。本書が世に出た直後にコロナ禍が発生し、著者が大切にする同僚・友人との会食は一層難しくなった反面、著者が最も大切にしているだろう家族との会食時間は増えた。食を切り口に人類の未来を真剣に考えたい向きにも、寝ても覚めても食に拘るフランス人の愛らしさに触れたい向きにも、本書は濃ゆくて頼もしいシェルパになってくれると信じる。サミットとシェルパ「山頂」転じて主要国首脳会議の通称となったサミットの歴史は50年弱前に遡る。ジスカールデスタン大統領の声掛けで、国際通貨制度を中心に世界経済問題を議論するため1975年にパリ近郊のランブイエで初のサミットが開催された。後に誕生したG20サミットとの対比でG7サミットとも呼ばれる。シェルパはネパールの一少数民族の名称で、ヒマラヤ登山の開拓時代に高地に順応した体を生かして登山ガイドを生業としてきた。シェルパは転じて、サミットに参加する首脳を補佐する首脳個人代表の通称となる。日本の内閣総理大臣のシェルパは外務省の外務審議官、大蔵省・財務省の財務官が務めてきた。シェルパはサミットで首脳を補佐する他、シェルパによる準備会合等を通じてサミットに向けた調整に当たる。著者がシェルパを務めた1989年のサミットに向けた準備会合の一つは、レマン湖畔フランス側の温泉保養地にしてミネラルウォーターで有名なエビアンで開催された。携帯、電子メールも普及する前の当時、エビアンのホテルにはFAXすらなく、本国への急ぎの報告には高額で回線数も少ない国際電話の争奪戦だったとか。2003年はそのエビアンでサミットが開催された。その間14年のICT革命の進展には目を見張る。 ファイナンス 2021 Nov.39ファイナンスライブラリーライブラリー

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